苦くとも甘い血液を口に




※怪物づかいを弄った物になります。
※流血表現がありますのでご注意。

















「お、ヒバリは吸血鬼役か」


劇の衣装を試し着していた所へやってきた山本は、雲雀の姿を見てさも嬉しそうに言葉を漏らした。
けれど当の本人はあまり良い気はしないようで、先程から眉間の皺が消える事がない。
そして視界に映る山本の異様な姿に雲雀は再び皺を深くさせた。



「…君、なんだいその色?」
「あー。オレ、ゾンビ役なんだよな」
「……へえ。気持ち悪いね」


全身を緑に塗られた彼の姿はまさしく異様。
その答えにそれとなく納得はしたがやはり気持ち悪いものは気持ち悪い。
うえ、と言わんばかりの表情のまま着替えもメイクも終えた所でさて更衣室から出ようとした刹那、山本が狭い小部屋へグイッと無理矢理入り込んできた。



「ちょっと、邪魔なんだけど」
「まあいいじゃねーか。どうせ誰もこねえよ」
「そういう問題じゃ…」


そう言い掛けた所でぎゅっと身体を抱き締められて、何事かと山本の身体を押し退けようと抵抗したけれど当然ながらびくともせず、頭を押さえられて彼の首元へグッと口元を近付けられた。



「確かヒバリって劇の中で血を吸う場面あったよな」
「…それが?」
「今やってくれよ」
「は?」
「だから、今オレの血を吸ってくれって事」
「何言ってるの?いくら血を吸うって言っても僕は普通の人間だ。君の血なんていらないし不味いだけだろ」


突然の山本の発言に目を丸くした雲雀だったが直ぐ様離せと抵抗し始め、それでも離そうとしない山本は己の首筋へ更に雲雀の口元を寄せた。
いいから噛んでみろとか言われ、耳許に降りかかる山本の吐息に小さく身体を震わせながらグッと唇を紡ぐ。
取り敢えず抵抗は止めたものの、やはり躊躇というものがある訳で中々目の前にある首筋へ噛み付く勇気が無い。
そもそも劇で噛み付く相手は綱吉であって、己よりも背の高い山本ではない。
だから、やり難い。
何時まで待っても行動に移さない雲雀に痺れを切らした山本は、雲雀の身体を抱き締めたままグッと壁へ押し付け、その後頭部を掴んで強引にも雲雀の口元を己の首筋へと押し付ける。



「っ、…強引なんだよ君は」
「わり…。けど、正直ツナが羨ましくて仕方ないのな。オレだってヒバリに吸われてー…」
「それ只の変態にしか聞こえない。それに吸うって言っても…沢田の血に興味無いよ……」


ぽつりぽつりと告げられる山本の言葉に静かに目を細め、自分なりの返事を返しながら押し付けられていた彼の首筋へ赤い舌先を伸ばした。
そしてゆっくりと遠慮がちに回された雲雀の腕は、まるで決意をしたかの如く山本の服をきゅっと握りしめ、山本も又、そんな雲雀の気持ちに応えようと強く強く愛しい身体を抱き締めた。
開いた口元からは特殊メイクで施された鋭い牙が除き、首筋へ噛み付くと同時に幾らか柔らかい皮膚を突き破りそこから生々しい血液がトロリと流れていく。



「っ、…ん」


小さな痛みに眉を寄せた山本だったが、己に懸命にしがみ着きながら首筋から流れる血液を舐め取る雲雀にきゅんきゅんと心が締め付けられていく。
山本の身体が緑色だとかもうそんな事は大した問題では無く、雲雀はただ懸命に喉を動かしながら流れる血液を舌で舐め取っていった。
時折ちゅう、と吸われる感覚に目眩を感じながら片手で雲雀の内股を撫で上げてみると、突然の事に目の前の肩がビクリと跳ねる。
嫌がりはしない事をいい事に、するりとスラックスの上から自身を撫でてみると緩く持ち上がる雲雀の自身が。



「だ…め、衣装が…」
「わかってるって。オレも汚す訳にいかねーし…。取り敢えず、満足するまで吸ってていいぜ」
「…ん」


パッと口を離して咄嗟に訴え掛ける雲雀に、山本はニカッと笑って受け答えをすると、再び頭を近付かせてやって吸血を催促した。
嫌だと言わずに小さな返事を返すや否や、真新しい箇所へ噛み付いてその血液をちゅうちゅうと吸い始める。
うっとりと酔いしれるようにして吸血を続ける雲雀は、耳許で感じる山本の吐息に暖かな幸せを感じていた。
血が美味い訳では決して無いが、何故だか彼の吐息を聞きながらだと不味い血液も今では美味しく感じる。
こくりと喉に通る山本の血。
じわりと体内で滲む感覚が、何だか身体の一部が一体化したような感覚がして心地好いのだ。



「ヒバリ、美味い?」
「ん……少しね」


すっと静かに口を離して、自らの血が雲雀の啌内を染めているという事実に少なからず独占欲は満たされた。
微かに舐め取れなかった口端に付着した赤いそれを指先で優しく拭ってやって、自らの血を少なくとも美味いと返答した雲雀にムラムラとあらぬ感情が湧き出てくる。
けれど衣装的な事もあり行為をするつもりは無いが、やはりあの雲雀が自分だけを見てくれているという事実が本当に嬉しかった。
本番では吸血行為は無く、只のふりなのだけれどそれでも嫉妬をしてしまう自分に雲雀なりの配慮、というか気遣いというか。
きっとそんな気持ちから自分の我が儘に付き合ってくれたのだろう。
苦い血液を口にして、しかもそれを美味いとまで言ってくれた雲雀の優しさは不器用ながらの精一杯の気持ち。
大切にしたかったけれど、そんな雲雀をめちゃくちゃに壊したいとさえ思う程に愛しい。
もう一度強く抱き締めて、雲雀へ大好きという愛を囁いた。
























「…今度はオレに食べさせてな……」


そんな言葉に耳まで真っ赤に染めた雲雀は、返事の変わりに山本の服を強く強く握りしめた。








........end







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