おまけ





「…なあ恭弥」
「なに」
「今夜ここで寝てもいいか?」
「嫌だ」
「いいじゃねえか。俺明日で帰らなきゃならねーんだ…。お前の温もりが欲しい…」
「気持ち悪い事言わないでよ」


ずず、と温かな緑茶を喉に通しながらぴったりと寄り添う彼に冷めた視線を向けた。
温もりなんて、そんな気持ちの悪い言葉は嫌いだ。
温もりだとか愛だとか、僕には全くわからない。
ツンとそっぽを向いてみせると、ディーノは雲雀の耳許へ熱い吐息を吹き掛けた。




「っ…気持ち悪い」
「もう夜だぜ。大人の世界を楽しまねえと勿体無ぇだろ」


嫌悪感に眉を寄せながらディーノからすすっと離れてやると、正に色っぽい声で言葉を吐きながら意味ありげな手つきで着流しの裾からするりと手を滑り込ませようとした所へ、雲雀はその手を容赦なく叩き落とした。




「ふざけないで。いくら何でも早すぎ」
「早さなんて関係ねえよ。俺もお前も、お互いを愛し合ってんだからいいだろ」
「……ねえ。あなた酔ってるの?」
「ちげぇよ…。俺は正気だ」


叩かれた手をブンブン振っていたくせに、返された言葉は何だか鳥肌が立つ程に気持ち悪すぎて思わず心から蔑みの眼差しを向けてしまった。
酔っているという言葉を否定するディーノだが、その顔は赤みがかっていて瞳もどこかトロンと水気を含んでいる。
その証拠に、先程から会話するディーノの声はいつになく鈍くて呂律も上手く回っていないような。
確かに、緑茶を出す時に久しぶりに日本酒が飲みたいだとかほざくものだから仕方ないと新しい瓶を持って来てやったが、畳に転がっている瓶は今までは空っぽ。
勿論雲雀も飲んだけれど、気分的な事もあってディーノ程は飲んでいない。
自分の中で、ディーノは酒に強いというイメージが定着していたし、事実酒には強いほうだ。
日本酒は焼酎とは違いアルコール度数は低いけれど、量を盛ってしまったせいかこうしてディーノは酔って…いる。




「……最悪。僕、介抱する気は無いから今すぐ帰って」
「なんだよ恭弥、冷てえー…」


このままいつか気絶でもされては運んで行くのも面倒だ。
まあ部下に任せれば簡単だが。
そう冷たくディーノに言い放つと、彼はまるで甘えるようにして雲雀に抱き着きすりすりと熱い頬で頬擦りをし始めた。
雲雀の低温の頬に気持ち良さそうにしてディーノは口元をだらしなく緩めていたが、雲雀にしてみれば気持ち悪い事この上無い。




「離れろ酔っぱらい」


いい加減我慢の限界だとばかりに渾身の力を込めた拳で、彼の頬を殴り飛ばした。
パタリと倒れた身体をそのままに、雲雀はさっさと部屋へ戻る。




次にディーノが目覚めたのは、跡形も無い無人の部屋だったとかなんとか。













(終り)









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