1話





大好きでは足りない馳せる思い。
愛しているという感情が沸々と湧き出てくる様はなんとも心地好かったが、同時に虚しさを感じた。
初めて会ったあの瞬間から、想いを寄せて早十年。
此れからも好きでいるし、愛している。
告白をしなかった訳ではない。
勇気を振り絞って告げたら、あっそうとか言われて一蹴りされた。
覚悟はしていたが、どうしても諦め切れずにディーノは心にその感情を隠した。
普段と変わらないような、誰が見てもおかしくないふりをして…










































「恭弥、久しぶりだな。元気にしてたか?」


キラキラと輝く笑顔を撒きながら、ディーノは目の前で不機嫌そうにする一人の青年に声を掛けた。
人目に着かない山奥に存在するボンゴレ本部。
来た理由は勿論仕事上の都合だったが、ディーノはこの青年に会いたかったのだ。
ぐしゃぐしゃにするかのように一つ低い頭を乱暴に撫でると、やめてと一喝され平手打ちの如く手を叩かれる。
狂暴だなと苦笑いしてやったらピクリと眉が動いただけで、後の反応といえば殺気が溢れ出さんばかりに彼を纏っているという事。
慌てて謝ると、雲雀は冷ややかな目でチラリとディーノを見てからスッと横を通り過ぎた。
勿論、何の未練がましくも無く。




「やっぱ…無理かな」


思わず漏れた弱音。
いかんいかんと首をぶんぶん振ったけれど、やはり心の中では物足りないと欲情する自分がいる。
整った顔立ちと、白雪を思わせる肌の白さ。
そして切れ長の鋭い目。
その漆黒の瞳がチラリと揺れるそれだけで、彼の周りを取り巻く色香は一層色付く。
むっと下がる彼の口角は、戦いの喜びを示す事でしか滅多に持ち上がる事はない。
艶のある短い黒髪は彼の色気を一層強くし、取り巻く雰囲気は艶やかで儚く、それでいて彼の動作は礼儀を知り尽くした程の滑らかさを表していて、見ていてとても品のある動きだった。
十年前とは全く違う雲雀の成長した姿。
あの幼い身体は何処へ行ったのだろう。
そんな疑問を周りで聞くが、この十年間雲雀しか見ていなかったディーノからしてみれば細身な体つきは何ら変わらないと思う。
雲雀が成長するに比例して自分も成長しているのだから仕方ないだろうが、だからこそ、幼い雲雀より大人びた今の雲雀の方が魅力的且つ妖艶だ。
いや、勿論幼い雲雀も大好きだが。




「あ、ディーノさん!丁度良い所に」
「お、ツナ。どうかしたか?」
「あの、今日泊まっていきませんか?日本からキャバッローネ本部へ行くには時間が掛かりすぎますし。リボーンともまた話してやってくださいよ」
「んー…まあ、そうだな。たまには息抜きも必要か。……お前ら、毎回見る度に成長してるな」


そう言って幼い綱吉を重ねながらその無重力の髪をぐしゃぐしゃと撫でてやると、綱吉は驚いて身を引いた。
誉められた件に関しては勿論有難いが、さすがにこの歳になってまで子供扱いは頂けない。
当然そんな事をわかっていてやったのだから、不満そうな顔を見ても笑えるだけだ。
冗談冗談とディーノが笑ってみせると、綱吉もつられてあははと笑う。
部屋に案内しますと綱吉に連れられながら、前を歩く彼から若干遠慮がちに小声で問いかけられた。




「雲雀さん、相変わらずですか?」
「ああ、まあな。さっきも嫌がられたし」
「俺思うんですけど…。雲雀さんはただ愛情を知らないだけなんじゃないかって。愛を知ろうとしない。…知ろうとしないままじゃ、知る事だって出来ないのに…」
「…まあそう言うな。あいつはあれぐらいが丁度良いんだ」


俯く綱吉をポンポンと宥めてやりながら、ディーノは少々複雑そうな顔をした。
ディーノが雲雀を好いている事は公認されているが、やはり自分ではない誰かに雲雀を語られるとモヤモヤとした感情が湧いてくる。
部屋へ着くと綱吉は暫く黙っていたが、力になれる事があればと口にした。
しかし他人に頼んでまで雲雀を手にしたいとは思っていない。
それを言葉にして、その親切を丁寧に断った。




「…ディーノさん。十年経っても真っ直ぐな所は変わりませんね」


ふっと柔らかな笑みを浮かべて、綱吉は静かに部屋の扉を閉めた。
ディーノの部屋は、最上階の一番端の部屋。
ディーノが硝子越しにふっと外へ視線を向けると、丁度守護者達の寝泊まりする部屋が見える。
ここが一番雲雀の部屋を見られる場所だった。
ボンゴレ本部の別荘は所謂コの字型の造りになっていて、守護者達の部屋と来客用の部屋が丁度向かい合っているのだ。
とまあ来客用と言ってもディーノやその部下達、時折情報提供に来るフゥ太だったりイーピンだったり。
殆どがマフィア関連の人等で、普段から綱吉達と関係が深い人しか来ないし泊まらせないようにしている。
そして雲雀の部屋が見えるとは言っても、雲雀がその部屋へ来て使用している姿など一度も見た事は無いが…。
けれど、ディーノはそれでも良かった。
向かいの、一番下にある一番端の部屋。
そこを見ているだけで良かった。
あの部屋が雲雀の部屋だと考えただけで胸の鼓動は速まるばかり。




「恭弥…」


人の扱いだとか付き合い方だとか。
そう言った対人関係に困る自分ではないが、まさか一人の愛する人を手にする事がこれ程まで難関だとは思わなかった。
いや、相手の性格からして予想はしていたが、告白を断られるなんて。
まるで何時もと変わらぬ顔で興味無いとの一蹴り。
考えてくれと頼んでも、雲雀は無言で部屋に帰っていった。
どうしたら彼に近付けるだろう。
少しでも、一ミリでも近付きたい。
あの高嶺の華を、いつかこの手に収めたい。
どうしようとうんうん頭を悩ませていた所に、ハッと気付いた。
そうだ、今晩雲雀の地下屋敷へお邪魔してみよう。
粘ってみれば案外入れるかもしれない。
ディーノは一人そう考えて、溜まっていた仕事をさっさと片付け始めた。













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