例え短き逢瀬でも…



『明後日から、今度は1ヶ月ぐらい留守にするッス』


そう言われたのは、おうちに2週間ぶりに帰ってきたばかりの時だった。
お仕事が忙しい慎太さん。
わかってる。
わかってはいる。
私、今――――きちんと、笑えてますか?

≪例え短き逢瀬でも…≫

大好きな慎太さんとたくさんの事を乗り越え結婚したのは、数ヶ月前の事。
慎太さんは今、陸援隊として…日々を毎日忙しく過ごしている。
まだまだ落ち着かないらしく、留守にする事が多い。
………っていうか、ほとんど留守。
新婚ほやほやは毎日大好きな慎太さんと一緒にいられる!と、考えてた。
現実はそう…甘くはないみたい。

本当は凄く寂しい。
寂しくて、寂しくて…苦しい。
でも、慎太さんの…お仕事へ向ける真剣な気持ちもわかってる。
だから、私は貴方を笑顔で見送らなきゃいけない。
………いけないんだよ。

『小娘ちゃん、もう一杯いいッスか?』

『……あ、はい!どうぞ!』

少し頬を桃色に染めた慎太さんのお猪口へと、お酒をトプトプ注いでいく。
今は晩酌の時間。
久しぶりに慎太さんとゆっくり過ごせてる…大事な大事な時間。
………何、暗い事考えてるの?私!
せっかく、あんなに毎日願った…一緒にいられる時間を過ごしているのに!
楽しまなきゃ、駄目だよ!

『ねぇ、慎太さん!この前ね』

先日あった出来事を慎太さんに話していった。
以蔵が数匹の猫になつかれて、困っていたとか…。
近所に近い歳の奥さんがいて、話せるようになったとか…。
本当にとりとめのない話。
慎太さんは…うんうん聞いてくれてて。
話の流れで、ふと…その奥さんの旦那さんの話になった。
毎日一緒で…喧嘩しちゃって大変………って。
………………あ。
話題…逸らさなきゃ。

『そういえば、あの和菓子屋さんがね!』

『…………小娘ちゃん?』

慎太さんが私の瞳をじっと、見つめてきた。
……バレちゃう…バレちゃうッ!
私の寂しいって気持ち、バレちゃうよッ!

『そ、それでね!』

慌てて喋り始めようとした私の唇に、慎太さんの人差し指が…ソッと触れてきた。

………まるで、静かにするように…って。

『…………慎太さん?……あのッ!』

『………小娘ちゃん?』

『………?』

『毎日、寂しい…ッスよね?』

『ッ!?』

ズバリ言われた…私の本音。
でも、否定しなきゃ!
大丈夫だって、心配いらないよって。


『否定しても無駄ッスよ?小娘ちゃんの顔に書いてあるんスから』

『…………ッ………』

『本音は……寂しい?』

私をギュッと抱き寄せた慎太さんが、優しく私に囁いた。
ずっと言いたかった言葉。
でも、言えなかった言葉。

『………小娘ちゃん?』

………甘えても……良いの?

『………俺に教えて?小娘ちゃんの本音』

『……………………みしい』

『………ん?』

『…凄く…寂しいよ、慎太さんッ!!』

慎太さんに抱き付いて、本音を吐露した途端に…涙がどんどん溢れていく。
苦しかったから。
でも、我慢しなきゃ!って…、頑張らなきゃ支えなきゃ…って………、ずっとそう思ってたって…。

『………ふ……う………う』

でも、嗚咽でちっとも話せなくて…伝えられなくて………。

そんな私を慎太さんは、あやすように背中をトントン叩いてくれてる。



久しぶりの慎太さんの温もり。
慎太さんの匂いと鼓動。
温かく…温かく、私を包んでくれてる慎太さん。

あんなに嗚咽していたけれど、徐々に落ち着いていった。

『………小娘ちゃん』


『………?』

『俺も………凄く寂しい』

抱き締めながら、私の頭を撫で始めてた慎太さんが…ふと、そう囁いた。

『慎太さんも………寂しかったの?』

『当たり前ッスよ。………大好きな小娘ちゃんに会えないんスから』

髪の毛にチュッと口付けを落とすと、慎太さんはまた呟き続ける。


『寂しくて…苦しくて…、小娘ちゃんと祝言あげる前よりも、辛かった』


………私もそうだ。
前よりも、片想いの時よりも…今の方が何倍も苦しい。

『毎日、毎日…小娘ちゃんの事、考えてた。もちろん、大事な会合中とかは別ッスけど………。ふとした瞬間。ご飯食べてる時。起きた時に寝る時。本当にいつもッス』

私もだよ、慎太さん。
いつもいつも…慎太さんの事、考えてる。

『綺麗な景色を見れた時には、小娘ちゃんが見たらどう思うだろうか?とか、今…小娘ちゃんもあの夕焼けを見ているだろうか?とか…。面白い出来事があれば、小娘ちゃんに絶対話すぞ……とか。たくさん、たくさん考えてるッス』

私と慎太さん…同じ事、考えてたんだ…。

『本当は毎日、会いたい。小娘ちゃんと離れたくない。けれど、現実にはそれは無理な事ッス』


…うん、わかってる。

『だから、小娘ちゃんも気を遣って…我慢してくれてるのも、わかってるッス』

……ふふ、バレバレだったんだね。


『実際、一緒に過ごせるのは限られた時間だけ………。だから……』

『………慎太……さん?』

『…落ち着いてきたッスか?』


慎太さんは私の顔を覗き込み、優しく微笑むと…優しい触れるだけの口付けを落としてきた。

『………うん、大丈夫』

『………じゃあ、話の続きッスよ』

『うん』

またギュッと抱き締めてきた慎太さん。
私も慎太さんに抱き付いた。

『だから、思ったッス。短い時間しか一緒にいられないなら、その時間を…貴重な大事な時間を、濃密に充実した小娘ちゃんとの大切な時間にしよう!って』

『………うん』

『逢えない時間は、小娘ちゃんへの想いを蓄えて………、逢えた時には、小娘ちゃんとの色んな事を全力で堪能しようって……そう思ったッス』

…慎太さんが、そんなにも私の事を考えてくれてたなんて…知らなかった。

『寂しいと感じるのって、それだけ想いが強いって事。だから、いつも早く小娘ちゃんに逢いたくて逢いたくて仕方なくて…そうなると、色んな仕事がどんどん捗るんスよ?』

頑張ってる動機は不純なんス。そう笑いながら言う慎太さんに私もつい笑ってしまった。


『俺は今…小娘ちゃんが暮らしていた未来へ一歩でも近付けるよう…動いてるッス。まだまだ寂しい想いをさせてしまうと思う。けれど…』

慎太さんは抱き締めていた腕の力を弱めると、ソッと優しく私を起こした。
真正面からジッと真剣な眼差しを私に一心に向けてきた慎太さん。
………胸がドキドキと、凄く高鳴る。

『………慎太さん……』

『それでも、……俺のそばに居てくれますか?……姉さん?』

それは……懐かしい呼び声。
私と慎太さんの想いが通じ合った時に交わされた言葉。

『もちろんだよ……慎ちゃんッ!』


満面の笑みを浮かべ、そう伝えてから…思い切り慎太さんに抱き付いた!

思い切り過ぎて、慎太さんを押し倒しちゃったッ!///////////


『……積極的ッスね?…姉さん?』

『や…違っ…!』

『久しぶりに姉さんって呼んだら、………う〜ん、なかなか新鮮な感じッスねぇ』


………うん、確かに何だかやけに照れる……姉さんという響き。


『………今夜は試しに……ずっと姉さん!って、呼んでみようかな』


悪戯に微笑んだ慎太さんが、クルンッと回転して………あっという間に、慎太さんが私の上にッ!

『………姉さん?覚悟は良いッスか?』

『か…覚悟?』

『言ったでしょ?…姉さんをたくさん堪能したいって』


慎太さんの唇が、どんどん私の唇へと近付けられる。


『慎太さん…待ってッ!』

『……待たない。そして、今は慎ちゃんスよ?』

『ちょッ!……し…慎ちゃん?』

『寺田屋でしたように……姉さんをたくさん気持ち良くするッスね!』

先程までの紳士な慎太さんはどこへやら…、すっかり狼さんになっちゃった慎ちゃんッ!

『…明日は1日ゆっくり出来るッス。…今夜は寝かさないッスよ?…ね!姉さん!』

『…あ……あぁ…そこ、だめ……ん、んあ……あ…慎ちゃん……慎ちゃんッ!………ああぁッ!…………』

たくさん、たくさん………
本当に一晩中、慎太さん…いや慎ちゃんに愛されまくった私。
久しぶりなのもあって、私の足腰ガタガタになっちゃって…
次の日は、二人のんびりゴロゴロ過ごしちゃいました!
また、お仕事へと出掛ける慎太さんを見送る。
ふと、目に止まった…慎太さんの首筋のキスマーク。
もちろん、私の身体にも…慎太さんの愛の痕が無数に残されてる。

…大丈夫!
逢えない時間は、お互いの想いを強め合う時間。
たくさん充電しておかなきゃね!

『じゃあ…小娘ちゃん、行ってくるッス!』


『慎太さん!行ってらっしゃい!』

寂しい気持ちも…貴方を好きでいる証拠。
例え短い逢瀬でも、短い分…充実した濃い時間を過ごせる。
さぁ、次は…何をして過ごそうか?

(おしまい♪)

お礼→


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