あの後、私には難しくて読めないことを伝えると武市さんは違う本と交換してくれた。
でもね、字からしてどの本も私には難しいわけで…
そのことも素直に武市さんに伝えたら、ちょっと驚いた後ににっこりと微笑んで、
「なら僕が教えてあげよう」
という事になったわけ。
読めない字やわからない意味が多くてその度に武市さんを呼び教えてもらう。
武市さんは嫌な顔せずに丁寧に教えてくれるから、頑張ろうって思えて。
初めて言葉を習うような…小学一年生とかに戻った感じがして楽しくなってきた時に障子越しに以蔵の声が聞こえた。
「先生、戻りました」
「以蔵か、入れ」
以蔵が断りを入れ障子を開けた時、私はちょうど武市さんにわからない文字を教えてもらっている所だった。
私が文字を指差し、少し後ろに座っている武市さんが肩口から覗き込むような感じでそれを見ている。
いつもよりもお互いの距離が近い。
そして、障子を開けた状態で以蔵が固まってしまった。
…以蔵、困ってる?
私がいたらお仕事の話できないもんね
「武市さん、私お茶の用意をしてきますね」
断りを入れて立ち上がり、以蔵の方へと向かう。
「おかえりなさい、以蔵。以蔵のお茶も持ってくるね」
「…あぁ」
ぎこちない返事を聞きながら私は武市さんの部屋を後にした。
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