どうかしとる ※3年以上前の文章につき諸々注意! もどる |
「おはようさん、」 いつもの朝、声のする方へ視線を向ければものすごく眠たそうな謙也さんの姿。それで歩けとるんが不思議なくらい目は極限まで閉じられとるしずっと欠伸をしとる。 「…おはようございます、何ですのん…その隈は」 よく見れば目の回りには痛々しい程の隈。ほんま、この人がここまでなっとるんは珍しい。 「あー、ちょお徹夜しとってなあ」 眠たそうに目を擦りながらそう言うた謙也さん。ああ、この人は受験生やから。そないな当たり前の事を思い出した。 「…受験勉強すか」 謙也さんの顔をあえて見ないようにそう聞けば、隣で頷く気配がした。せや、もう直ぐこの人は引退。またもそないな当たり前な事を実感して、なんや分からへんけど…辛なった。 「まあ、そろそろ本格的に先のこと考えなあかん思うたら、な」 はは、て渇いた笑みを浮かべながら謙也さんは寂しそうに言うた。そないな表情を見るんがどうしても嫌なって、気い付けば思うた事が口をついて出てきとった。 「あんたがそないな顔するとこなん、見たないっすわ。いつもあほみたいに笑うとるんがあんたやないんですか。そないな顔、あんたには似合わへん」 どないしてこないな事を言う必要があるんか、それを聞いた謙也さんはどう思うたんか。俺は謙也さんに何をしたいんか、色んな気持ちがいっぱいになって頭ん中ぐちゃぐちゃになっとる。 ――、 不意に頭におかれた手。せや、これは謙也さんの手や。 「…おおきにな、財前」 どないしてあんたが礼を言うん、俺は何も出来てへんやないですか。 「あー…、今年一年で終わりなんやなーて思うたら柄ちゃうんやけど悲しなってなあ…せやけど、やっぱ俺らしくないっちゅう話やな」 そう言うて俺の顔を見た謙也さんはいつもの笑顔で笑うた。 「…ほんま、きしょいっすわ」 謙也さんの笑顔を見たら、なんでかは分からへんけど頬が熱なった。なんでかは分からんけど。ごまかす為に歩き始めれば、 「ちょ、置いていかんといてや」 そないな声と共に謙也さんが駆けて来たんが分かった。 どうかしとる、 (あんたの笑顔をずっと見とりたいやなんて) ‐End‐ |