- ナノ -
happy birthday ※3年以上前の文章につき諸々注意! もどる



 今日は俺の誕生日…な、筈。せやなのにまだ祝いの言葉を貰ってへん。まあ、白石や千歳達は祝ってくれたんやけど。あいつとはまだ、今日になってから話してもおらへん。別に絶対祝って欲しいとか言うつもりあらへんけどやっぱ恋人には…て思う俺はなんか間違っとるん。なあ、財前。



「謙也、おめでとさん」

「ん、ああ…おおきに」


 朝から皆に祝われて、悪い気分な訳があらへん。せやけどまだ、財前とは話してへん。ちゅうかあからさまに避けられとる気いがするんのは気のせいなん。





 気付けばあっちゅう間に放課後やし。


「謙也、今日は財前とデートとかせえへんのか。せっかくの誕生日なんやし」

 部活の終了後、白石が話しかけてきた。デート、なあ。出来るもんやったらしたいんやけど、財前があないな態度やし。


「約束してへんからせえへん」

 俺の言葉に白石は驚いたんか、

「喧嘩でもしたんか財前と。せや、今日自分ら話してへんかったよな」

 こないな事を言うた。


「よお分からへんねん。せやけど財前が淡泊なんは前からやしちょお虫の居所でも悪いんとちゃうん」

「なんや寂しくないん、自分の誕生日なんに」


 ま、寂しい言うたら寂しいんやけど。せやけど、


「俺は財前と一緒に居られるだけで幸せなん。せやから誕生日くらい気にせえへんわ」


 これが今のありのままの気持ちやねん。


「ふーん、まあ謙也がそう言うんやったら良えんやけど。で、財前の方はどうなん」


 白石が部室の扉へと目を向ければそこには財前が居った。妙に俯いとる財前に首を傾げつつも問いかければ返事もあらへんで。


「まあ、ほな後は二人で仲良うしいや」

 白石が気い利かせたんか着替えを終えて出て行った。部室に残るんは財前と俺、二人だけやった。



「……」

「なあ、俺財前に何かしてもうたんか。せやったら謝らへんあかんし」

 沈黙に耐え切れず口に出せば、小さく財前が答える声が聞こえた。


「…どないして、教えてくれへんかったんですか。今日が謙也さんの誕生日やって何で教えてくれへんかったんや。俺、今日の朝知ったんですわ。俺だけ知らへんかったんやて思うたらなんや謙也さんと顔合わせるんが気まずなって」

「それで、一日中避けてたん」

 俺の言葉に財前が頷くんが分かった。あほやなあこいつ、そないな事俺が気にする筈あらへんやん。


「あんなあ、自分分かってへん。俺は財前と居れるだけで幸せやねん、せやから今日一日避けられとって俺がどんだけ辛かったか分かるか」

 静かに財前を見つめながら言うたら財前は不意に顔を上げた。


「すんませんでした」

 その表情はいつもの生意気な財前やなくて。ぎゅう、て眉間に皺寄せて辛そうな顔をしとった。そないな財前の表情を見れただけでなんや分からへんけど不謹慎ながら嬉しなった。


「…何、笑うとんねん」

 俺の表情が気に食わへんかったんかいつもの調子に戻った財前が言うた。


「あー…、なんでもあらへんて。せや、ほな財前…俺の欲しいもんくれへん」


 俺がこう言えば財前はあからさまに嫌な顔して渋々ながらも頷いてくれはった。

「急に話変えんといてくれます。まあ、知らへんかったんは事実やし…俺に出来ることならやりますわ」



「財前から、キスしてくれへん。それが俺にとっては一番大切なプレゼントになるんや」


 財前の瞳をじっ、と見つめながら言うたら。

「…っ、今日限りですわ」

 多少頬を赤らめた財前からのキスが贈られるんはあと数秒後。







happy birthday
(出会えた事が一番の宝物)
(せやから財前、これからもよろしゅう頼むわ)

‐End‐