- ナノ -

塩辛い倦怠を絡めて平らげた

ほんの戯れに齧りついた唇は思っていたよりはカサついていないことが妙に不思議に思えた。殴り負けて押し倒されて、今日はもう面倒だなーなんて考えつつ頭上のシズちゃんを見上げつつその先の夜空へと視線を投げると街の明るさに負けたそこは退屈そうにどんよりと重だるい雲を広げているばかり。

「…あ?」
「反応が思っていたよりはマトモじゃんシズちゃん」
「いや、え、は?」
「ふは、ウケる。シズちゃーん、状況分かってる?」

アスファルトに固定されていた手首はいとも容易く拘束から逃げられたし、俺を押さえつけていた当の本人はそれきり言葉を発することもない。退屈だなぁ、なんて思わず口をついて出た言葉がシズちゃんに届いたかどうかは知らない。

「まさかファーストキスとか言わないよね」

もう一度。シズちゃんの襟足をぐっと引いて口付けてみる。さしたる抵抗もないまま何度か触れるだけの口付けを繰り返してから投げた言葉に返答は無し。ふらふらと顔の前で振った手にも反応は無し。あー、つまんないなー。知らずと洩れた言葉に顔を上げたシズちゃんと視線が絡む。

「臨也」
「なぁに、シズちゃん?」

俺の退屈食べてくれる?なんて誘い文句にしては随分な言葉を放り投げるまであと数秒。


end