- ナノ -

甘ったるいタルトタタン切り分けて

頬杖をついて此方を見やる姿に何度目かの溜息が洩れる。そんな俺に対して笑みを深める面を横目に捲るページの中身はとっくに頭から抜け落ちているし、むしろはじめから頭に届いているかすらも謎だ。

「なん、止めてまうの?」
「見られていると気が散るからね」
「ふ、榊君は相変わらずの自意識過剰やね」
「何がどう自意識過剰なのかは知らないけれど、俺の指摘は間違っているかい?」
「大正解やからこその照れ隠しやん」
「もう少し感情を込めたらどうだい」

どうでもいい言葉の応酬も慣れ親しんだもので、こんな会話も過去何度も繰り返した覚えがある。それ程までに目の前の男と過ごしてきた時間経過を考えるとどうにも癪だと思えてしまうのは自分が未だ大人になりきっていないせいか。

「榊君、食べへん?」

会話を投げて、手元の本を鞄へと戻す寸前に下げた視線の片隅に入り込むそれはつい先程まで土岐がフォークで丁寧に切っては食べ切っては食べを繰り返していたものだ。

「あーん」

問答無用で差し出されたフォークの先。次いで口内に広がる甘さが土岐と少し似ているな、と。柄にもない事を不意に考えた頭に対しては読書をするには端から不向きな日だったらしいと思い知った。


end