- ナノ -

ちょっと味の濃すぎた青椒肉絲

あ、と思った瞬間には時既に遅し。思いの外容器からふりかかった塩の量は多くて、多分これを口にすれば米の粒と同時に塩の粒子も感じるんだろうなとまるで他人事のように考える。ひとではないけれど。

「あんたそれかけ過ぎだろ」
「偽物くんの茶碗と交換する?」
「なぜ」
「そういう提案かと」

互いに視線を交わすことはなく口をついて出る言葉と共に片手に持った茶碗をなんとなく差し出してみる、と同時に隣に座る奴へと視線を投げてみるとその手に乗った白米山盛りの茶碗がおずおずと差し出される瞬間が見えた。

「おかわりもらってくる」
「米と米で塩をサンド?」
「そもそもあんたはなぜ白米に塩なんだ」
「なんとなく、ほらごま塩の親戚みたいな感じで」
「ごま無いけどな」

流暢に交わされる会話、その会話の合間に口に運ぶ漬物は今日も美味い。差し出されたままの茶碗を受け取ってまだ箸のつけられていなかったそれに取り掛かろうとすれば隣で腰を上げる雰囲気が伝わって思わず奴を見上げる態勢になる。

「ついでに味噌汁もほしい」
「分かった」

俺が既に空にした椀を片手に厨へと向かう偽物くん。向かいに座る猫殺しくんは奴と俺の顔を交互に見ると大袈裟なため息をついて見せるものだから彼の皿に残っていた茄子の煮付けを奪ってやった。


end