- ナノ -






 今この状況を説明するとなれば一言、肩にかかる適度な重みが心地良い。なんて、そんなことを口に出せば途端に君は離れていってしまうから今はまだ、目をつむってこの温度を堪能したいと思う。


「おい、」

 暫くの間黙っていた彼が口を開いたのはこうしてから幾分か時間が経った頃。なんだい、と聞き返せば何でもないとでも言うように黙り込む。そんなやり取りが何度か続いた後にふと、頬に彼の髪が触れるのを感じた。脱色をしたのか、その当時の出来事は知らないけれど。春の日差しに透き通る金色をぼんやりと視界の端に捉えれば更に距離を詰めて体を寄せて来た彼に愛しさが募るのは仕方のないこと。

 すりすりと、まるで猫がそうやるかのように甘え擦り寄ってくる彼に驚くのもつかの間。そっとその髪に口付けを落とせば嬉しそうに瞳を閉じる。我ながら、幸せ酔いをしている。そんなことを思いつつも、隣に居る彼にならって目をつむる。

 春の風がふわりと、俺達の髪をなぜるのを感じた。







春、
(横に居る彼から寝息が聞こえてきたのはそのすぐ後)

‐End‐
20100406.
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