- ナノ -



手な人



「響也」

「…」

「響也」

「…」

「響也、好きだぜ」

「…っ、」

 先程から自分の名を呼ぶ男、東金の言葉にそれまでは堪えていた羞恥心が込み上げてきたのを感じ響也は頬を赤く染めた。ふと、名前を呼ばれたかと思い立ち止まれば自分が返答をしないことを良いことに東金は名前を呼び続ける。何の用事だ、と情けなくも僅かに震えた声色で呟けば問われた当の本人はさも嬉しそうに響也の体を抱き寄せるだけだった。


「…だ、からっ…あん、た唐突過ぎんだよ…っ、」

「は、俺はしたいようにしているだけだ。お前は、俺の物だからな」

 口端を上げて笑う東金はくい、と響也の顎を上げて荒々しく口付ける。相手のくぐもった息に満足そうに目を細め腰に添えた手に力を込めれば更にきつくその体を抱き寄せた。響也の肩がひくり、と跳ねるのを視界の端で捕らえ咥内へと舌を忍ばせればふらつく足元に必死で力を入れる響也の姿があるのだった。


「ん…ふ、あ…」

 室内には響也の上げる僅かな喘ぎ声と口付けの際に出る水音が響き、それに気付くと更に頬を赤く染める響也の姿が見えた。

ちゅ、と軽いリップ音を立てて唇を離せば東金の瞳に映るのは目尻に涙を溜めてこちらを睨む響也の姿。く、と喉で笑い耳元で再度名前を囁けば観念したように東金の胸へと顔を埋める。


「…あんた、ほんとわけ分かんねえ」

 全身が脱力し東金へと身体を預ければふわりと浮く感覚と共にソファーへと運ばれ次に降る口付けに備えて響也はそっと瞼を閉じるのだった。







勝手な人
(でも、そんなあんたが好きなんだよな)

‐End‐
20100402.
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