- ナノ -






 今俺の目の前に居る千秋の目線はテレビに注がれとる。千秋がテレビを見る事自体珍しゅうのに、脇目もふらんと一心に画面を見つめとる光景はなんやごっつ違和感があったんが確か。話し掛けようにも千秋の性格上そないな無粋な真似は好かへんやろう。せやから仕方無しに俺もテレビへと意識を向ける事にした。内容は、終戦記念の特番やった。こういった内容のドキュメントは適当に流すタイプやった俺はさほど内容に聴き入らないまま時間だけが過ぎていくことになった。



「…千秋、」

 それから暫く経ち、特番が終わりを向かえて次に控えとるやろう番組へと切り替わった。その様子を見ても千秋は一切身動きせえへんでただテレビ画面を見詰めとった。



「……」

 良え加減その場の空気がなんやおかしい事に気付いて千秋を覗き込めば。頬に一筋の涙の跡を残して目えを赤くした普段からは想像出来ひんくらいに沈んだ千秋が居った。


 正直言えば千秋がそない様子なんを俺は理解出来ひんかった。こういった内容に対して涙もろいタイプともちゃうし、俺と同じで割り切った考えをするもんやとばかり思うとったから。俺はこういったモンを過去の事や、今俺らが考えても過去にあった事実は変えられへん、そないな考えの元で聞き流す事にしとる。情があらへん、冷たい奴やて言われそうやけどこれが俺やねんからしゃあないんもまた確か。そらまあ小っさい頃なんかはただ悲しむ事くらいはしとったかもしれへん、せやけど次第に成長する上でそういった意識も薄れてもうたんも覚えとる。せやから千秋も、俺程までは割り切った考えちゃうくてもそれはそれて考えられる人間や思うとったさかい、尚更に千秋が涙を流した理由に俺はただ首を傾げるしかあらへんかった。



「…今から俺らしくないことを言うがお前はただ黙って聞き流してくれれば良い」

 ぽつりと呟かれた声でそれまで考えとったんを中断して千秋の言葉へと耳を傾ける。小っさい声で話す千秋はいくらか憔悴しきった様な、そんで瞳がいくらか揺れてる様にも見えた。


「今こうやって俺達が一緒に居れる事が奇跡なんじゃねえかって、そう考えずには居られなかった」

 その言葉の後に腕を伸ばされて、首元へと抱き着いてくる千秋がごっつ弱いモンに見えた。なんや俺の目の前から消えてまいそうな、そない訳の分からへん考えが頭に浮かんだんを振り払う様に背中へと手えを回してかるくあやす様に叩いた。そっからいくらか気分が落ち着いたんか千秋からは寝息が聞こえてきて。



「ほな…奇跡に感謝せなあかんね」

 あながち冗談とはとれへん言葉を千秋に送ってそっとベッドへと寝かせれば。時計の針は午前0時を指しとった。







幸福
(今当たり前に出来とる事が色んなモンを踏み台にしてきたんやなあて)
(そう考えたらなんや千秋が言いたい事が少し、分かった気いがした)

‐End‐
20100815.
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