プロローグ、
今思えばひと夏の間の欲求の吐け口だったのかと。改めて自分へ問うと同時にそれに対する僅かな反論と、多々の焦燥感が身を襲う。そんな葛藤にここのところ毎晩のように苛まされ、そこまで思い詰めるのならば何故それを当事者である東金へと伝えないのかと。自分の中でそう結論付け響也は東金が眠る部屋の前へと脚を運んだのだった。
「…俺だ、入るぜ」
もう何度も脚を運んだその部屋へといつもと変わらないその台詞で敷居を跨ぐ。この一月の間、何度も感じたその相手が眠るベッドを覗き込めば当の本人は安らかな寝息を立てこちらに気付く様子も無い。自分がこれだけ悩んでいるのに、と。半八つ当たりかに思えるが、自らの指を薄く開く唇へと這わせばさも当たり前かのように口へと含む東金。
(…無意識、だから怖いんだっつの)
何度も口付けを交わした。慰め合い程度に互いへと触れ、そして互いを感じ果てた。そんな一定の行為をしてもなお、互いの間を結び付ける明確な言葉は一つも発せられた事は無かった。それが響也と東金の関係であった。
「はは、ほんと…馬鹿みてえ」
夏の大会も終え、皆が思い思いに夏を楽しんだ後に明日はもう寮内に居る居候達が自分達の本来居るべき場所へと帰る日となっていた。そんな状況になって、今更ながらに自覚したこの気持ちをどうすべきか。悩んだ揚句に出た答えはやはり、伝える。その一つだったのだ。
「俺は、どうすりゃあ良いんだよ」
「…てめえが、したいようにしやがれ。そもそもに先に仕掛けてきて最後まで好き勝手しやがったのがてめえなんだからよ」
一人呟いた言葉に、反応が返る。未だ瞳を閉じたままにそう言う東金は響也へとその結末を任せると。この先の人生を揺るがすかもしれないそんな決断を任された響也は、一つ、小さく息を吐いた後に口を開いた。
「終わりにしようぜ俺達……そんで、改めて俺と付き合ってくれ」
プロローグ、(きゅう、と握られた手に気付くのは)
(その直ぐあと)
‐End‐
20100810.