- ナノ -





響也×東金前提

「なあ、如月弟君て千秋とどこまでいったん」

「は、」

 今の状況を説明するのならば質問者である土岐は優雅に紅茶を飲んでいるところ。対して解答者である響也は持っていた譜面を全て床へと散らばせたところ。


「ふ、そないに動揺することちゃうやんか」

 実に初々しい反応を見せた響也へと小さく笑みを洩らし床へと散らばる譜面へと手を伸ばす。当の響也はと言えば頬を真っ赤にし微動だにしない。自分とはまるで対称的な響也へと譜面を渡し再度ティーカップへと口を付ける直前、


「き、キスはした…はず」

 そんな小さな呟きが聞こえた。持ちかけたティーカップをテーブルへと戻しそちらへと身体を向ければ見ているこちらが可哀相になる程に耳まで赤をさし、そして俯いた響也の姿があった。


「はず、てどないな意味なん」

「…っ、」

 気になった台詞を率直に聞けば依然黙りを決め込む響也。その様子にふ、と笑いを零し飲み損ねた紅茶を胃へと流し込む。


「俺、が。寝てるあいつに…キス、した」

「…さよか」

 二人の年齢を疑いたくなる程に幼いそれに僅かに苦笑し、続く言葉へと耳を傾ける。


「俺、は。あいつが好き、だ。でも…こんなの初めてだし、何して良いか分からねえんだよ」

 徐々に小さくなるその台詞。なんや随分清いお付き合いやんなあ等とひとしきり感想を頭に浮かべた後、ふと悪戯心が芽生え俯く響也へとそっと近付いた。


「なあ、顔上げてえな」

 不意に耳元で囁かれ肩を震わせれば自分の目の前にそれは綺麗な顔がある。そんな状況に置かれたあげく自分よりかも幾分か高い位置にあるそれへと顎へ手を当て向けられれば赤面しないわけがないだろう。今置かれている現状に頭が白旗を上げたのもつかの間、すうと近付いてくる土岐の唇に恥ずかしさからか、はたまた罪悪感からか、なんとも言えない気持ちに僅かに視界が濡れた後にまるで何も無かったかの様に離れていく土岐に対して今度こそは口を開いたまま呆然とするしか道は無かった。


「分かったやろ、こないな風に千秋にしてやりいや。千秋て、強引なんに弱いからなあ」

ふ、と笑い空になったティーカップを持ちキッチンへと向かう土岐。


「あ、んたには渡さねえからな」

 その背中へと宣言すると。小さく肩を震わせ響也へとその宣戦布告への答えを口に出す。その後はなんとも拍子抜けした響也の姿があるだけとなった。







相談
(そないな自分らを見るんが楽しいんやで)
(そう言うたら如月弟君、めっちゃ目え真ん丸にしよったんよ)
(…君は本当、策士だよ)
(ふ、おおきに)

‐End‐
20100807.
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