寝言
珍しいものを見た、否現在進行形でその珍しいものは榊の目の前で心地の良さそうな寝息を立てている。
「いつもは、変に警戒心を持たれているからな」
くすりと小さく笑いを洩らし額にかかった前髪をすいてやれば僅かに身じろく響也。ん、だなんて可愛らしい寝息に微笑めば途端にぎゅう、っと腕を引かれる。
「…っ、」
「…ん、」
ただ引かれただけの様で、それ以降は変わらず寝息を立てる響也に安堵の息を吐く。先程より至近距離へと迫る寝顔に僅かに苦笑しつつ普段とは想像出来ないあどけないその寝顔へと手を這わす。小さく開いた唇を指でなぞればなんとも言い難い気持ちが沸き上がる。別に男の寝顔に欲情だとか、決してそんなものではない筈だ。誰に聞かせるわけでもなく一人納得するかの様に頷けばそんなことを考えている自分自身を客観視してしまったらしく頬へは微かに熱が上がるのを感じた。
「ん…だ、…いち」
そんな榊の葛藤は直後の響也の呟きによって更に拍車がかかる事となる。びくりと肩を揺らし響也へと目を向ければそれは至極幸せそうな表情で寝息を立てていて。勿論掴まれたままの腕を離す訳にもいかずどうしたものかと考えるのもつかの間、更に呟かれたその一言によって今度こそは俯かずにはいられなくなるのだった。
寝言。(だい、ち)
(…あんたが、す…きだ)
‐End‐
20100806.