- ナノ -



夜中の出来事



「…眠れねえ」

 寮内の人間も寝静まったであろう午前2時を少し過ぎた頃、自室の机から微かに明かりが漏れたその部屋で響也は一人呟いた。隣室である律は勿論のこと、大会期間中に居候として菩提樹寮に宿泊している至誠館、神南の生徒も皆夢に見入っているだろうその時間に何故自分一人が寝入ることも出来ずに瞳を開いているのか。その疑問に対する答えは先程――といっても夕食時だが、見た真夏によくある心霊ものの特番である。



「…ガキじゃねえんだから、まさか怖いとか言えるわけねえよ」

 温かい麦茶でも飲んで眠気を誘おうと考え階下へと下りる道すがら呟けば知らずと声音は自嘲地味たものとなる。



「…東金、」

 脚を踏み入れたホールは未だ明かりが灯っており、庭に面したソファーには神南の東金が腰をかけ優雅にティーカップへと口を付けているところ。


「ああ、如月弟か。は、随分お悩みみてえじゃねえか」

 ふ、と笑いそう言った東金の台詞は先程の自分の呟きに対してだろうと容易に想像出来る、と同時に夏の暑さとは関係無しに頬が熱を持つのを感じられた。


「…う、るせえ」

 ばつの悪さもあり俯き気味に吐き出せばまたも笑われただろうと思われる吐息の音。今度こそいたたまれなくなり早々と目的を済まし自室へと戻ろう、そう考え台所へと視線を向ける。


「…っ、」

 眼前に広がるのは夜の闇に溶け込んだそれで、とてもじゃないが自分から脚を踏み入れようだなんて思える状況ではなかった。



「…ったく、本当にお前は素直じゃねえな」

 その言葉と共に今まで口を閉ざしていた東金が響也のすぐ隣を通り過ぎる。びくり、と情けなくも肩が震えたことに小さく舌打ちをし、そして無意識のうちに目の前を行くその人へと手を伸ばした。


「は、」

 服の裾を掴まれたことにより眉間に皺を寄せた東金が見たのは僅かに震え、悔しそうに唇を噛む響也の姿。瞳は、少し潤んで見えなくも無い。



「怖いなら素直になりゃあ良いじゃねえか」

 行くぞ、と。まるで子供をあやすかの様に頭を撫でられた後に台所へと手を引かれる響也の耳は更に赤をさすばかりだった。







真夜中の出来事
(たまにはこいつも可愛い気があるじゃねえか)

‐End‐
20100802.
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