- ナノ -






「ほら、そこの君はもうちょおくっついてえな」

「…くっつけ言うてもなあ」

「ほら、千秋早よ」


 今の状況。蓬生と二人、目の前にはカメラマンとレポーターらしき奴。何故こんな状況になっているのかと聞かれれば俺にも正直理解しがたい。


「よっしゃ、ほな良え笑顔してえな」

 フラッシュと共にシャッターを切る音。こんな道のど真ん中で通行人にどれだけの迷惑をかけているだろうか。


「良えよ右の君、せやけど左の子おはもうちょお笑ってえな」

 笑顔笑顔と散々要求され仕方なしに笑う、と同時に耳元で囁かれる言葉。


「千秋、表情引き攣っとるやん。俺がリラックスさせたろか」

 ぞくりと背筋が震える。持ち直す様に首を振りやんわりと蓬生の身体を離そうとすれば途端に俺の腰へと添えられる。僅かな震えが伝わったのかにんまりと笑う蓬生。


「ほ、うせいっ」

 俺の言葉にも我関せずの様に顔を上へと向かされる。視線がかち合う、千秋と名前を呼ばれれば身体の力が抜けるのを感じた。


「…っ、人…そと、や…ん」

 そう、今の状況を再度言うのならここは外な訳で。目の前にはカメラとレポーター。ああ、完璧に怪しまれる、そう思い蓬生から目を離せば夢中でシャッターを切るカメラマンとそれを指示するレポーター。


「な…、」

「ふ、なんや照れるわあ。そないに撮られてまうと」

 くすりと笑う蓬生を横目に、呆然とその光景を見詰める俺。


「良えよ、今こういうん巷の女の子らの間で流行っとるから。しかもや、君らみたいな美形の男の子やったら尚良えしなあ」

 淡々と告げられる言葉に漸く思考が回復したのかその言葉の意味を考えれば、それは今の一部始終をカメラに収められていたということで。


「ちょ、あかん」

 完全に復旧を遂げた思考でとりあえずとカメラへと手を伸ばす。蓬生との関係がバレただとか、周りの反応だとか。全てが頭の中を駆け巡る。


「千秋、ストップや」

 緩く捕まれる腕、大丈夫やからと囁かれれば黙るしか無くて。


「……」

「……」


 暫くの沈黙の後に響くのはリポーターのあっけらかんとした声。


「冗談や、ちゃんと消しとくさかい安心してえな。君らみたいなんを見世物にしたいとかそないな気持ちあらへんし」

 ほなおおきになあ、だなんてそんなお決まりな挨拶と共にカメラマンを従えて街中の雑踏へと消えていくレポーター。後には状況が理解出来ずに混乱する俺と、そんな俺を楽しそうに眺める蓬生。


「それにしてもあれやんなあ、まさか千秋とデートしとって写真撮られるやなん思わへんかったわ」

「…俺はほんま、焦ったっちゅうに」

「はは、千秋らしないやん。せやけど焦っとる千秋も可愛えよ」


 ちゅ、と。触れるだけのキスを落としてふんわりと笑う蓬生。


「せやから外、」

 ふて腐れた様に呟けばさも楽しそうに笑う蓬生が居た。







写真
(“街中で見付けたイケメンカップル(笑)”)
(……なあ、これってあいつらだよな)
(ああ、東金と…土岐だね)
(イケメンカップルって、)
(はは、良いんじゃないかい。女の子受けは良いだろうしね)
(なんつうかコメントに困るっつの…)

‐End‐
20100531.
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