観客
響也×東金前提「好き、だ」
「そうか、俺も好きだぜ」
「…っ、俺の方がもっと好きだ、っつの…っ」
「…ほう、言うじゃねえか。それなら俺は愛してるぜ、お前のこと」
「……っ、あ…、」
目の前で繰り広げられとる攻防線を俺はテーブルに肘を着きつつ眺める。これが始まってもう10分以上は経っとるはず。せやのに未だに終わる気配を見せへんバカップル達、ああなんや虚しなってきた。
「…これは、一体どうしたんだい」
不快やと思うとる声音も、余程疲弊しとったんかそこまで気にはならへん。あかん、ほんま末期症状出てきよったわ。
「…知らへん、本人らに聞いてえな」
「遠慮しとくよ」
俺の溜息に僅かに眉間へと皺を寄せて肩を竦める榊君。いつもやったらこないな態度もイラつくんが今はそれすらもどうでもええ。俺が何も言わへんのを疑問に思うたんか首を傾げつつ榊君は俺の向かいの椅子へと腰を下ろした。
「…如月弟君を素直にさせたいんやて」
はあ、て大袈裟に溜息を一つ。顎で指せば榊君は納得したかの様に苦笑する、それを見て例の二人へと視線を戻せばどうやらまたも千秋が勝った様で如月弟君は真っ赤な顔して睨んどった。
「響也を素直に、ね。まあ東金も人の事は言えないとは思うけれど」
ふ、やなんて笑うて様子を見守る榊君に俺は更に溜息を一つ。ちゅうかあれやんな、千秋も千秋で言い出したら聞かへんさかい、こら如月弟君が口で千秋に勝つか、または千秋が飽きるんを待つしかあらへん。
「ほら、早くお前の気持ちを吐き出せ」
くすりと笑う千秋に如月弟君は僅かにたじろく。その隙を見逃さへんかったんか途端に間合いを詰める千秋、その距離僅か3センチ。
ごくり、て。如月弟君が息を飲み込む、そんでキスした。もう一回言うで、ちゅーしたねんちゅー。ああ、ほんまあかん。若いモンにはついて行けへんわあ。
「俺は、あんたを愛してる」
「……っ」
はい、試合終了。結果、千秋の計算ミス。仕掛けた本人が照れてしもてどないすんねん…ほんま、見とるこっちの身にもなってえな。
観客(…土岐、君の気持ちが分かったよ)
(…さよか、そら嬉しいわあ)
(はは、見事な引き攣り笑い)
(…言うとれば)
‐End‐
20100527.