call me.
蓬生が中庭へ向かって暫くした後、再度聞こえたギターの音色。それに聴き入りそして、ちらりと目の前に居る如月を盗み見る。
(ああ、多分大地だろ。あいつ、ギター弾けるみてえだし)
前から気にはなっていた。通っている学校が一緒、加えて同じ部活内でアンサンブルを組んでいたとなればそこそこ仲が良いのは当たり前のことだ。俺がこいつに出会ったのは8月、その前からこいつと…榊はお互いを認識していた、ただそれだけの事。
「…い、おーい」
ふと、我に返れば如月が俺の顔を覗き込んでいた。俺が返事をしない事に癇に障ったのかは知らねえがひとしきりこちらを凝視した後に顔を反らされた。…意味が分からねえ。
「如月…」
「んあ、」
口に運んでいたクッキーを皿へと置き訝しげに首を傾げ不愉快そうに眉間へと皺を寄せる。その顔、気にくわねえんだよ。
「だから、何か言いてえんなら黙ってないで言えっつの」
はあ、と大袈裟につかれる溜息。俺の顔はきっと如月と同じく眉間に皺を寄せていると容易に想像出来た。
「名前、…お前らは随分と仲が良いみてえだな」
イライラ半分、バツの悪さ半分。中庭から目を反らす様にして呟けば目の前の如月は何が何だか分からずといった様に口を開けて呆ける。
「…名前って、大地の事か」
こいつにしては珍しく察しがついた様で。その事実に頬へと熱が上がるのを抑える事が難しい。
「…へ、当たり、か」
阿呆みたいな顔でこちらへ聞いてくる如月は敏感なのか、はたまた鈍感なのか分かったもんじゃねえ。素直に認めるのは癪だ、そう思い僅かな抵抗と小さく頷けば。その後に響いたのは如月が俺の名を呼ぶ声。いつもの様に名字じゃあなくて、
「千秋、」
と。味を占めた様に何度もその音を口にする如月はさも嬉しそうに微笑んでいた。その表情を見て今度こそは抑えられないと諦め、俺は火照った頬をどうやって落ち着けるか、その問いに翻弄されていた。
call me.(響也、)
(そう呼べばこいつはどんな表情をするのだろうか)
‐End‐
20100508.