- ナノ -



交流。



「ストップ東金」
「は、」
「いや、だからさストップ」
「おい、誰かこいつの言葉を翻訳しろ」

 別に俺だって好きで君を引き止めてるわけじゃないんだけど。そんなことを言えばこの男はあからさまに不機嫌そうな顔をするだろうから口には出さないで手招きをする。怪訝な顔をしながらも俺の側にやってきた東金を引き寄せて、そっと耳に手を伸ばせば途端に体全体に力が入るのが分かった。

「…っ、」
「ああ、少しそのままでいてくれないかい」
「な、んだ」

 耳に触れた手を払われて。眉間に皺を寄せてこちらを睨む東金。別に取って喰おうって話じゃないんだからさ。

「いや、君のピアスが外れかかってるようだからさ」

 促すように自分の耳を触り目で仰げば一瞬呆けた後に表情が和らぐ。

「いきなり何かと思ったじゃねえか」

 ぶつぶつと呟きながらも外れかけたピアスを直そうとする東金を横目に、さて練習を再開するかとか何とか考えてヴィオラを取りに向かう。と、同時にシャツを引っ張られる。

「まだ何か?」
「着けられねえ。芹沢を呼ぶのも面倒だからな…星奏の副部長、着けろ」

 ぐい、と手に押し付けられたピアスと東金とを交互に見れば若干ばつが悪そうに視線を反らされた。耳が僅かに赤いのはこの際言わないでおくとする。

「人に物を頼む時はそれなりに言葉を選ぶべきじゃないかい」

 なんて言葉を耳元で囁きピアスを宛がえば。びく、と体を強張らせる彼が可愛いらしく見えたのは夏の暑さのせいにしておこう。じゃなければ、この傍若無人でだけど何故か放ってはおけない彼にハマりそうな自分が居るから。





初交流。
(…ん、くすぐってえよ)
(あー、ダメだ。反則だよ)
(…は、)
(うーん、まさか君相手とはね)

‐End‐
20100310.
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