秘密
それを知ったんは如月弟君の言葉から。あれは確か、俺と千秋と如月弟君とで茶を飲んどった時。ちなみにどないしてこの顔触れかっちゅうんは割愛させてもらう。
「…ギター、なあ」
カップへと手を伸ばすと同時に中庭から聞こえてきたんは普段聞く楽器の音色とは似ても似つかない音。
「ああ、多分大地だろ。あいつ、ギター弾けるみてえだし」
俺の台詞を軽く流しつつクッキーを口に放り込む如月弟君。それを横目に千秋へと一言かけて音色の響く中庭へと足を運ぶ。
「…土岐、だね」
そこに居ったんはベンチに座ってアコースティックギターを弾く榊君で。どないして菩提樹寮に居るん、とか。ギター弾けるやなんて知らへんかった、とか。聞きたいことはぎょうさんあったんにそれ以上に、聞き慣れない音色への興味が強かった。勿論、その楽器を奏でる榊君にも。
「聴かせてえな」
そう呟き隣へと腰を下ろし瞳を閉じる。暫くの間の後に響くのは心地よいギターの音色。聞いた事のあるその楽曲はおそらく榊君の好きなあの曲をギター用に編曲したモン。今思い返せば先程から聞こえてとった音もこれやったと一人納得する。
「…良え音出すんやね」
曲を演奏し終えると同時に感想を伝えれば珍しく、ほんまに珍しくハニかむように笑う榊君が居った。中々見れへんその表情は、照れ隠しから為るモンやて知ったんはついこの間のこと。
「お褒めに頂き光栄です」
気恥ずかしさからなんかそっぼを向く榊君はいつもよりも子供に見えて。気付けば俺の口からは笑い声が洩れとった。
「だから君には知られたくなかったんだ」
元々隠すつもりもあらへんかったくせにそないな風に呟くんは俺の一連の言動のせいもあるかもしれへん。せやけど、
「良えやん、俺は榊君のもう一つの音色を知れたんやし」
くすりて笑うて、思うた事を告げれば榊君は一瞬ほうけてバツが悪そうに肩を竦めた。
秘密(それも全部、照れとる時のクセっちゅうんはまだ教えたらへんよ)
‐End‐
20100506.