- ナノ -
触れる唇が存外カサついていると感じたのは、回数を数えることを止めたその後だったはず。其処らの同性、或いはある意味異性よりも遥かに整ったツラをしたコイツに対して柔らかいだの心地が良いだのとある種ソウイウノリの感情を抱くことは可能であれば避けたいと思っていたはずなのに、いつの間にか当たり前となった粘膜の接触を伴うそれが始まる合図と言えばいつも向こうからの口付けがきっかけだったことを思い出した。

「……なんだ、ヤりてぇのか」
「は、今更なに言ってやがる。もう脱がしてるとこだっつの」
「へーへー、好きにしろ」

軽口の応酬を重ねながら合間に唇も重なって、時折淡く噛みつかれる動作に対して思いの外粗さを覚えなかったことはコイツの気遣いか別の何か故か。単に常の悪行から物にした振る舞いだとも考えたものの、それを考えている己自身に舌を突き出してやりたくなる衝動を覚えたこともあってこの思考は外に追い出すこととして眼前の相手へと意識を戻す。

「なに、また随分と上の空じゃねぇか。ヤる気ねぇの?」
「んや、ヤる気はあるがちと考え事」
「へぇ?仲介屋さんは次のお仕事の計画でも立ててんのか。払い良いなら寄越せよその案件」
「まだ未定だっつの、とは言えオマエ向けなんで?後で説明すっから今はこっち」

言うが早いが、伸ばした手指が触れた頬は逃げることをしないらしい。意図を察した伏黒が身を乗り上げるようにして距離を縮める中手にした煙草を灰皿に押し付けてから、改めてそのツラを仰ぎ見る。体重をかけられて抗う気分でもなく、片腕を回して抱いた腰は頬同様に逃げる素振りを見せないらしい。


end