- ナノ -



 いい加減少しぐらい整理したら、と怒鳴られたのが今朝方。僕が帰ってくるうちに綺麗にしておかなかったら明日の食費はあげないからね。腹立つくらいの笑顔でそう言い切った雪男に俺は頷くほかなくて。ちくしょうあの眼鏡、俺の昼飯を人質に取ろうなんざ賢くなりやがって、と唇噛みしめたのが今から三十分前。



「なんだこの袋」

 とりあえず片付け始めないことには何も始まらねえっつうことで重い腰、ちなみに変な意味じゃねえから――を上げて机とベッドの周りのゴミをビニール袋に放り込んだ。その合間に見付けた薄汚れた古い袋は微妙に膨らんでて中に何かが入ってるような雰囲気で。ゴミなら捨てなきゃだし、ゴミじゃなくて、ほら例えば雪男のパンツだとか、やべ想像したら開けんの楽しみになってきた――捨てちゃまずいもんならこんな袋に入れとくのもあれだし。てなわけでおっかなびっくりその袋を開けてみりゃあ出て来たのは、白い洋服。なんだこれ、こんなのこっちに来るとき入れた覚えねえんだけど、だとかなんとか考えつつもそれを広げてみりゃあ同じタイプの服がそっくり二着。


「これ、確か前に雪男と着てたやつだよな」

 引っ張り出して床に広げてみりゃあふわふわの白い生地に耳が付いてた。妙に懐かしくなって、ちょっとの好奇心のままにそれを被ってみる、と同時に部屋のドアが開くのが分かって見てみりゃそこには任務から帰ってきた雪男が居て。


「…兄さん、遊んでないで部屋の片付けは済んだの」

 眉間に皺寄せて俺を睨む雪男にもう一着を投げ付ける。何するの、ぎょっとして俺を見る雪男に俺は口端が釣り上がるのが分かった。


「おー、似合ってんじゃん。つうか覚えてねえのかよー、これ着てた頃はびーびー泣き喚いてばっかだったのによ」

 へら、って笑って言ってやれば雪男は何回か瞬きをした後に漸く思い出したのか頭からずり落ちたそれを手に取った。ポンチョ、って言うらしいねこれ。クラスの女が言ってたっつうその服の名前を口にした雪男にちょっとのヤキモチを込めて奪い取ったポンチョを雪男に被せてやった。


「俺と、またお揃いだな」

 ピースサインを見せながら笑えば雪男も小さく笑ってくれて。あの頃より、少しは成長出来たよね。そう言って遠くを見る雪男のほっぺた掴んでこっちを向けさせて。ばーか、こんなにでっかくなりやがって。俺と居るくせに俺を見ない雪男にお仕置きの意味を込めて髪をぐっしゃぐしゃに掻き混ぜてやった。







おもいで
(おう、似合ってんじゃん)
(…ふ、兄さんも中々だよ)

‐End‐
ついったで仲良くして頂いているゆんさんからネタをお借りして書かせて頂きました。ゆんさんへ捧げます、素敵なネタ提供を有り難うございました! 20120304.戻る