- ナノ -

昼下がり


「桜」 「は?」 「だから、桜だ桜」 今の今まで俺達は昼飯を食っていたわけで、急に呟かれた言葉に箸を動かす手を止めて視線を合わせればむすっとした表情で唇を尖らしている東金が居た。 あ、その顔ちょっとやべえかも。んなわけの分からない高揚感を覚らせないように次の言葉を待てばさらに気を悪くしたようにそっぽを向く始末。 「ちょ、あんたが桜っつったから俺は次の言葉を待ってんだろ」 暫くの無言の後に仕方なしに聞けば、眉間に皺を寄せて俺を睨む東金。 「相変わらず理解力に乏しい奴だなお前は」 は、と。鼻で笑われりゃあこっちも黙ってるのは我慢ならなくなるわけで。 「だったら、あんたがしっかり言葉を続かせれば良いんじゃねえのか。つか何だよ、桜を見たいだとか桜が綺麗だとか、桜の季節だとか次に続く言葉は何だっつうんだよ」 息も着かず言い切れば東金は珍しく拍子抜けした表情の後に僅かに俯く。俺は何も悪いことをしているつもりはねえのにこの動作はずりいと思う、口になんか出さねえけど。 「あ……と、その」 ここで喧嘩するってのもあれだし俺なりに必死で弁解してようと口を開けば出てくるものは単語にもならないものばかりで。あー、まじで怒らせちまったかな……なんて一人で悶々と考えてりゃあ途端に腕を捕まれる。 「ちょ、待てって」 「うるせえ、お前が言った言葉だ。責任持って俺に桜を見させろ」 ずんずんと俺の腕を引っ張って歩き出す東金を振り払って前に回り込む。顔を覗き込めば一瞬目を泳がせた後に視線を反らされた。 「つうと……結局、あんたは花見がしたかったって理解して良いんだな?」 俺の問いに小さく頷く東金を見ればすることは一つ、東金の手を取って歩き出すと不意に指を絡められたのを感じた。 (花見してえならはっきり言えっての) (うるせえ、分かると思ったんだよ) (……なんつーか、あんたって変なとこ素直じゃねえよな) (……言ってろ) ‐End‐ 20100404.