ギフト
「ったく、芹沢の奴どこに行きやがった」
卒業を間近に控えたんにも関わらず、ウチの学校の管弦楽部は練習に勤しんどる。ちなみに俺は、自主休憩中。千秋が芹沢を探しとる声を聞きながら軽く目を閉じれば、途端に肩を揺すられるんが分かった。
「なんやねん、俺今休憩中やて」
「ああ、んなこと聞いてんじゃねえ。蓬生、芹沢の奴はどこに行きやがったか知らないか?」
見れば、両手から溢れんばかりの荷物を抱えとる千秋。大方ファンの子からのホワイトデーの贈り物やろ。逆や、てツッコミは無しの方向でよろしゅう。
「少し廊下に出た途端これだからな。ったく、渡されるのは構わねえがTPOを考えるべきだろう」
まだ抜け切らへん余所行き用の標準語に若干の違和感を抱きつつ、その手に抱えた小箱を一つ取れば怪訝な顔を向けられる。
「なんだ、あいつの代わりか?」
そんなんちゃうよ、て言えばまた元の不機嫌な表情を浮かべる千秋。しゃーなしに半分寄越し、て荷物を受け取ったれば途端に表情を和らげる。ほんま見ていて飽きひん奴やんなあ。
「で、これどこ置けば良えの?」
「せやな、とりあえずは俺の鞄の付近にでも置いてえな」
練習室から出て、部室へと向かう。どさり、まさにそないな擬音がぴったりな程大量に渡された贈り物を一瞥し、もう大丈夫やんな。そう言うて扉へと手をかければ蓬生、と名を呼ばれるんが分かり千秋の方へと振り返る。
「ん、どないしたん?」
「俺の用事は終わってねえ、ほらよ」
投げ渡された金色に輝く小箱に目を奪われる。なんやのん、そう呟けば目を反らして千秋にしては珍しゅうくらいに口ごもる。
「世話になっているからな、礼だ」
居心地が悪そうに、せやけど耳元を赤く染めて言われたその言葉に愛しさが込み上げて。
「おおきに、千秋からの愛の込もったモンやんなあ」
そう言うて、笑えば。
「あほ、調子こいとると返してもらうで」
照れ隠しの言葉と一緒に贈られたんは愛しい奴からの口付け。なん、珍しいこともあるもんやなあて緩む頬はそのままに言うたれば。
「うるさい、気分だ気分」
相変わらずの物言いにくすりと笑いを零す。ほら、戻るで。そう言われて腕を掴まれた。
(なあ、お返しはちゅーで良えん?)
(言ってろや、ドアホ)
‐End‐
20100314.