お遊び
+新
「やっぎさわ、ぶっちょー」
そんな声と共にユキにぶら下がるのは至誠館の一年……名前は確か水嶋、だったか。背中越しにタックル食らっても尚にこやかな笑みを湛えているのは水嶋のその行動に慣れているせいなのか、或いは全く我関せずということなのか。
「水嶋はいつも元気だね……だけど、今僕は千秋と話している途中だったんだよ」
端から見れば諭しているかの様に見えるその光景、ユキは相変わらず笑顔を絶やしていない。その割に俺の頬は引き攣るばかり。嫉妬、否、そんなモノじゃあねえ。
「あ、千秋さんっ 部長とお話中だった?」
にこにこと笑いながら言う水嶋へと軽く頷き返し、踵を返す。と、同時に呼ばれる名前。
「千秋、何処に行くんだい?」
「……蓬生と、練習だ」
振り向きざまに言えばぐっと腕を捕まれる。耳元で囁かれた言葉に僅かに頬を赤らめればくすりと笑うユキ。その後ろの水嶋は不思議そうな顔で首を傾げている。
「う、るせぇよ」
これ以上は此処に居たくねえ、そう思って脚を進めれば後ろからはユキが楽しそうに水嶋と話す声。
(続きは、あとで…だよ、千秋)
自分達以外の人間が居る時に限って煽る様な真似をするのは最近のユキのお気に入り。俺の反応を楽しがっているのかにっこりと笑顔で見送るユキ。
(本当可愛いよね、千秋って)
(……ぶちょー、なんか言いましたー?)
(ん、お茶でも飲むかいって聞いたんだよ)
(さっすがー、早くキッチン行きましょっ)
(水嶋も可愛いよね)
(へ?)
‐End‐
20100506.