- ナノ -

重ねる。




 ほろほろと流れる涙が純粋に綺麗だなあと思った。抱かれているのはぼくなのに、まるで蘭丸が突き立てられてるのかと問い掛けたくなるくらいの表情を浮かべているのを見てしまうとずいぶんと倒錯的な気持ちになってしまう。彼は、ぼくの身体をいつも気遣ってくれる。それこそ、ぼくが病弱かなにかでもないのかと思ってしまうくらいには大事に触れる。ぼくは壊れないよ、以前にそう伝えたことがあった。そのとき、蘭丸はぼくになんて答えただろうか。
(消えるな)
 そう、確か、彼はそう言った。そのときも今みたいに眉間へとシワを寄せて泣きそうな表情を浮かべていた気がするからぼくはそっと彼の、何もセットのされていないお風呂上がりでふわふわな髪を撫でたんだった。あのときの蘭丸の髪が指に心地よく絡んだのは記憶に新しい。いつもぼくの視線の先に居る蘭丸は決まって背筋を伸ばして、そして前を向いている姿だ。そんな彼がたまに、ほんのたまに心細いような、まるで捨てられることを怖がる子犬のような視線を寄越すときがある。そんなとき、ぼくは決まって彼を抱き締めて、そうしてぼくの体温で彼の身体を包みたいと願うばかりだった。

「ね、蘭丸。君はどうしたい?」
「大丈夫、ぼくは消えないよ」
「ほら、あーったかいでしょ」

 下唇を噛み締めてぼくの身体を抱く蘭丸は涙の膜が張った瞳を見開いて見せる。ストロベリーを思わせるその瞳はわずかに揺れていて、未だに彼は不安を消せずにいるのだろうと感じた。彼の過去を詳しく知りたいと願った時期もあった、けれどもそれも、もう過去のこと。ぼくだって忘れられない過去があって、それもでも、過去のこと。ぼくらは今、現在を生きている。過去を含めて成長したいだなんて綺麗事かもしれないけれど、そう思えるようになったのは今ぼくの腕の中に居る蘭丸その人のおかげだ。前を見据える姿がいつも眩しかった。ぎゅう、と抱き寄せた身体は汗ばんでいる。涙を流しているからといってぼくの中に埋められた彼が萎えることはない。もちろんぼくのものだって萎えてはいない。変わらずに先端からはカウパーを滴らせていて、それを掬えば指と指の間に糸を引く。

「ランラン、気持ちいいね。ランランも、一緒でしょ」
「もーう、泣き虫だなあ。はい、ぎゅー」
「あったかいね、蘭丸」

 ぼくの身体は丁寧に折り畳まれて蘭丸の胸へぺたりと張り付けるように身体を重ねられている。とくんとくんと揺れる鼓動はどちらのものか、どちらか片方の、ではなくてどうせならぼくと蘭丸の鼓動が混ざっちゃえば良いのに、そう願う。

「れいじ、れいじ…れーじ」
「ん、大丈夫。ここにいるよ」
「…ん」

 奥を突かれる感覚は未だに慣れることはない。けれど身体は正直とはよく言ったもので、突かれれば喉からは高い声が漏れるし後ろが、きゅう、と締まる。

「好きだよ、ねえねえランラン」
「…おれも、好きだ」
「ふふ、ねえランラン。結婚しよ、君との指輪で途切れない鎖を作ろ」

 ぼく、料理の腕だけは誰にも負けないからねん。そう伝えてから、予約とばかりに蘭丸の左手をとって、そうして薬指へと口付けを贈る。頬に伝った涙はもう乾いた、その跡を舌で撫でてから、ぼくと蘭丸の額とをこつりと突き合わせる。

「…くっせえ、台詞」
「ふふん、ぼくちんお兄さんだからね」
「……嶺二」

 なあに、と。唇は音を紡ぐことなく塞がれる。啄むようなキスを楽しみながら、最後の突き上げに備えて蘭丸の身体へと抱き付いて。好きだよ、愛してる。耳元へと囁いてからそっと瞼を閉じる、蘭丸はもう
泣いてはいなかった。



‐End‐
20131111.