- ナノ -

ふゆ




 ふわふわと漂うのはしろい、しろいぼくの吐息とランランの吐息。夜に溶けていくように消えていくその吐息と、消えることなく存在するのはランランが手に持つ肉まんの湯気。ふたつに割ったそれを両手に持って、マフラーに半分埋まったほっぺたは緩みきっていて。ああ、かわいいなあ、なんて。そんなことを口に出そうものならきっとランランのことだ、ぼくの言葉に眉間へと皺を寄せるだろう。

「おいし?」
「ん」

 もごもごとくぐもった返答が寄越される、左手に持っていた肉まんはいつの間にか口の中。はふはふと白い湯気がランランの口から漏れていく、ぼくはふう、と両手に息をかけてから高い位置にある秋の夜空を見上げてみた。星がいくつか、都会にしては珍しいなあと感じながらもその様を視界に収めていく。ぼくの隣ではランランが肉まんを食べている。あっという間に冬が来る、秋の高い空も、徐々に葉を散らせていく木々だとか、朝起きる度に感じる寒さはもう直ぐ傍に冬が迫っていることを感じさせる。

「れいじ」
「んー」

 ぼくの生返事に返される言葉はない。どうしたの、もう一度。今度はしっかりとランランの正面に回りこんで、少しあざといかなあとは感じながらも下から覗き込むようにして彼を見上げる。あ、こぼれたしろが重なった。

「やる」

 その二文字だけ、たったそれだけをぼくに寄越したランランは右手に持っていた肉まんをぼくに差し出して見せる。ランランが食べたいんじゃないの、暗にそう伝わるように差し出されたそれとランランの顔を交互に見比べていたら、ぺちり、ほっぺたに触れるのはランランの大きな手の甲。

「さみいから、半分こ」

 君はもう食べちゃったのに、そう聞いても言葉を濁されるばかりでランランはもうその肉まんを食べる気がないのかぼくにそれを持たせるとジャンパーのポケットへと両手を隠してしまう。なら、もらうね。ふわふわ、漂うしろを見詰めながら再度確認のために彼に問いかければ「ん」と、さっきよりも更に短な一文字が返される。

「えへへ、ありがと」
「どーいたしまして」

 決してぼくの顔を見ようとはしないランラン。混ざったしろは秋の終わりかけ、真っ暗な夜空に消えていった。



‐End‐
20131104.