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ランジェリイホリック




 真っ赤な赤い下着を着たランランの姿はすごく、本当にすごく綺麗だと思った。“彼女”を見たときにも感じたけれど、彼の真っ白な肌に真っ赤なそれはよく映える。内腿の適度にかたい筋肉の先、長い足の間に覗く赤色から、彼の髪色とは異なる本来の色である黒い陰毛がうっすらと見えることは酷く、扇情的だった。
 ランランは普段から一度眠りにつくと余程のことがない限り目を覚まさない節がある。それこそ下世話な話をしてしまうと例えば、熱に浮かされたぼくが彼の後ろへと手をやって、いつも健気にぼくを受け止めてくれるそこを解したりだとか、しとどに濡れたぼくの半身を押し入れたりだとか。そこまでのことをしない限りは目を覚まさない、それは間違いない。だから今こうして彼がそれまで身に付けていたTシャツとハーフパンツ、そしてハーフパンツの下に隠されていた下着を取り払ったところで彼が意識を取り戻すことはないだろうし、まるでこれから風呂にでも入るのかと錯覚してしまうような姿に自分以外の者の手によってされたところで彼は気付きもしないだろう。こういったランランの特性というか性質というか、眠ったら暫くは起きないといった姿はとても可愛らしく思う反面、ぼく以外の人間が彼に何かしらのいたずらを仕掛けたら、と思うと怖くもある。とは言え今この部屋にいるのはぼくとランランのみだし、その心配は杞憂でしかないのだけれど。
 今ぼくは何を思ってこんな恰好をしているのだろうか。“彼女たち”が身に着けていた女性モノの下着を身体へと順番に装着していきながらふと考える。膝立ちになったぼくの下、ぼくがまたぐ形でベッドに沈んでいるランランは未だに起きる気配はないし、そしてその身体には既にぼくが着させた真っ赤な下着が飾られている。ぼくが身に着ける下着の色は深い紫色、それはぼくと同じ顔をした“彼女”が着けていたものだ。流石にあの時のように股の、布が厚い部分が湿っているわけではないけれど、今は今でぼくがその布地を濡らしているのだからさほど変わりはなかった。
 ぼくの陰茎はランランの痴態をみて既に芯をもっている。当たり前だけれどランランのそこはいつも通り、ただし小さな下着のせいもあって僅かに先端が覗いている。ぼくのものに比べたら随分と可愛らしい姿だ。変態、と目が覚めたランランには言われるかもしれない。けれど、欲求が募ってしまったのだから少しは譲歩してほしい、きっとランランだって“彼女たち”の姿を見てぼくと同じように喉を鳴らしただろうから。とは言っても勘違いしないでほしいのはぼくがあのときあんなにも興奮した理由は“彼女たち”がもう一人の自分たちであったからで、女性の身体に何かしらのことを――例えばランランの体つきと比べたりだとか、そういったことは全くない。あくまでもぼくが興奮する理由は『蘭丸だから』それだけだ。だから今こうして女性モノの下着を身に着けたランランを目の前にしてぼくは普段のような勢いがもてないでいる。それは決して彼を女性として見ているから、ではなくて。予想以上の見映えに我ながら自画自賛をしたいほどには、真っ赤な下着を身に着けた彼の姿が魅力的だったからだ。人は極度の緊張で身体が動かなくなることがある、今のぼくもそんな調子で。喉はからからで今すぐにでも冷蔵庫から冷たい水が入ったペットボトルを出したい気持ちにかられながらも身体は素直に熱をもってランランの扇情的な姿を見下ろしていた。これではまるで童貞か何かか、と自分自身でも情けなくなってくるけども。つい、と伸ばした指先に触れる薄いサテン生地と、眠っているが故に上下する白い胸元から得られる視覚的刺激はそれほどまでにぼくを魅了して見せたのだから。
 ぼく自身の体重でランランの身体を押し潰さないように慎重に手のひらをベッドに着いて体勢を整える。ベッドにランランを押し倒す形で一旦停止、ふう、と吐いた吐息には自分が思っていた以上に熱を孕んでいたものだからどうしようもなく居たたまれなくなってランランの胸元へと顔を埋めてみた。
 一番最初に鼻の先につくのは人工的なサテンの生地。つるりとしたそれは繊維が折り重なって編まれている、普段ならば女性の胸を覆い隠すものなのに、今その布が隠している部分に女性のようなたわわな膨らみはない。ただ、ぼくが布越しに執拗に甘噛みを加えたことでランランの乳首は布を押し上げているのが見て取れる。透けた赤い生地にパットは入っていないらしく、薄い布越しにぷくりと膨らむそこは実に艶やかで今日何度目かの喉が鳴る。生唾を飲み込んでからもう片方のそこへと指を伸ばして、芯のもったそこにしきりに吸い付きながらもう片方は指で捏ね繰り回す。布越しとは言え快感は得られるらしく、鼻にかかった吐息を漏らされたときは下腹部がズンと重くなるのが分かった。ちなみにランランは未だに夢のなか。
 露出した腹筋を指で撫で上げる。むず痒い感覚があるのかランランはくすぐったげに身を捩って見せる。立膝をついてランランの太腿を外側から押さえるようにして逃げ場を塞いでからさっきよりは熱を持ち始めて下着から覗く陰茎の先に指を伸ばす。ぼくがそこに触れた瞬間にぴくり、と身体を跳ねさす姿が素直に愛おしかった。やっぱり布越しに、指の爪先をつかって竿の側面をひっかくようにして刺激を与えて。尿道口に人差し指の爪先をねじ込むようにして弄っているとそこからは次第にカウパーが溢れてきて、滴ったそれはぼくのものと同じように布の色を濃くして見せた。

「……ぁ、ン」

 不意に耳を掠めた嬌声に口の端が吊り上る。見ればランランは無意識なのか、頬をシーツにこすり付けるように、まるで意識がある時の彼がそうするように快感から逃れる術を探っている。いじらしいその反応はぼくの情欲を誘う。こくり、と鳴らした喉はからからに干上がっていた。部屋の室温は、妙に暑い。
 このまま彼の下着の腰紐を解いて薄い布を逃してやるのも悪くはないと思った。これどもどうしてもそれはもったいないことのようにも思えたからその考えには気付かなかったフリをして、ランランの身体に覆いかぶさるように肌を重ねてみた。互いに熱をもった下半身を擦り合わせるように腰を前後させる。素股でも、擦り合いでも、ましてや挿入でもないこの行為の名はなんというのか。そんなことをぼんやりと考えながらも布越しに感じるランランの熱さに背筋を逸らす。ダイレクトに擦り合わせたい気持ちも無くはない。けれどもやっぱり、今日くらいはこうして普段のぼくらが決してしないような、そう、まるで“彼女たち”のような姿で彼との情事に耽るのも悪くはない。だってそうだろう、ぼくにとっては目の前の蘭丸こそが絶対的にメインディッシュで、女性モノの下着はあくまでも彼の魅力を底上げするエッセンスでしかないのだから。

「れ、じ…」

 不意に耳に届いたたそれは目を覚ましたランランがぼくを呼ぶ声で。たった今意識を取り戻した彼は事の次第を理解するにはまだ時間が足りないらしい。自分の上にいるぼくと、そしてぼくの身に付ける下着の紫と、それに自分が身に付けた下着の赤。きっと今ランランの目には様々な色が映っていることだろう。願わくば、ぼくという色が彼の中での一番でありますように、そんなことを口に出してみようか迷っていれば徐々に覚醒していったらしいランランは自分に乗り上げたぼくの身体をつい、と眺めて見せた後にぼくの腰を抱き寄せる。腰に触れた手はやっぱりというかなんというのか、ぼく自身の体温よりも熱くてくらくらと目眩がする。

「れーじ、はやく」

 あえての拙い口調。ぼくの唇とランランの唇が触れるその距離で囁かれた言葉はぼくを陥落させるには十分すぎるほどのトッピング。見ればランランの瞳は欲に濡れていて、でもきっと彼の瞳に映るぼくもそれは同じこと。

「いっぱいあげるから、ぼくに君をちょうだい」

 問いかけたそれはランランの唇に溶けていった。


‐End‐
こちらはカルスコ2で配布した無配です。
20131107.