- ナノ -

倒錯




 いま、おれの目の前には女のような格好をした嶺二が仁王立ちしている。酒でも飲み過ぎたかと思って頬を手のひらでぺちぺちと叩いてみても痛いだけ、それは夢でもなんでもないらしく、かと言って飲み過ぎによる幻覚だとかそういうものでもないらしい。紺色のセーラー服と呼ばれる女物の制服と、胸にはご丁寧に真っ赤なスカーフがリボンの形を作っている。下半身は妙にひだの数が多い上と同じく紺色のスカートが膝の少し上まで、足元は黒いハイソックスを履いた嶺二はにんまりと笑顔になると問答無用とばかりにおれの部屋へと上がり込んだ、それがつい10分ほど前のこと。

「…っふ、ぅぐ」
「らんらーん、ちゃんとぺろぺろしてってばあ」

 妙に甘ったるさを兼ね備えた口調でそう言われたところで嶺二の股に頭を押さえこまれているこの体勢じゃろくな反抗も出来ずじまい。上を向いた亀頭を口に咥えさせられて、玉が顎に当たる不自然な感触に嗚咽する。喉奥を突く先端からは馴染みきった苦味が滴っていて、それはそのまま飲み込むことを強制される。おれの顔に跨る形で嶺二は腰を揺らす、床に座り込んだおれはソファに頭を預けて、その上を跨ぐ嶺二はおれの顔のサイドに立膝をついて、手はソファの背もたれを掴んで身体を支えているらしい。所謂、顔面騎乗と言われるその体勢と、おれの視界からは嶺二の顔が窺えないことからも今こうして共に情に耽っている相手は誰だっただろうかと頭の隅が燻ってくる。視界には紺色のスカートの裏地、幾重にも重なるひだのなかの、不釣り合いな性器。かろうじて嶺二のそれと分かる悪趣味な柄をしたトランクスは奴の左腿に片足が抜き去られた状態で引っかかっている。ひたりひたりと玉が当たる感触が癪で、そこをやや強めに指で握ってやれば頬に触れる内腿が僅かに強張ったのが分かって気分が高揚する。ついでにとばかりに口のなかの性器に柔く歯を立ててやった。

「らんらーん、もう、いじわるしちゃダァメ」

 意地悪なのはどっちだよ、そう言いたい気持ちを堪えて視線を上げれば視界が明るくなっていた。見れば嶺二がスカートの裾を指で摘んで捲り上げていて。それこそ、女がやればどこの痴女だてめぇは、そんな言葉を投げかけてやるくらいにははしたないその格好をしているのは嶺二であってどこの女でもない。未だ立膝で、おれの口には嶺二の性器が収まっている、鼻呼吸をするしかないその体勢は正直言えば酷く苦しいのに。嫌なら力尽くで嶺二を退けてしまえばいいのに、それをしない理由は何故か。

「れいちゃんの、いーっぱい舐めて?」

 おれが何も言わないことをいいことに嶺二はそう言って喉の奥へと更に腰を進めてくる。鼻にかかった呻きと、喉奥を突かれることで感じる圧迫感による吐き気がこみ上げてきて今にでも口のなかのものを吐き出したくて堪らないのにそれが叶うことはない。嶺二が腰を振ることであちこちに跳ねるスカーフタイの自由を恨みながら目の前の、鼻の先を擽る陰毛にひたすら恨みがましい念を送ってやる。視界は涙でぼやけるなか、奴が果てるまではこのままか、それともまたスカートの下に埋められて、そしてそこで顔に喰らうのか。それはまだ分からない。けれど、こんな状況下の中スウェットの生地を押し上げている自分自身が一番理解出来なくて、一刻も早く意識を手放してしまいたい。そう思ったのに、まるでそれすらも見透かしているかのように視界の端にぼんやりと映った嶺二はそれはそれは楽しげに唇を舐めて見せた。
 夜は、まだ長い。視界を埋め尽くした紺色に今度こそ瞼を伏せて、熱の篭ったそこに丁寧に舌を這わせてやった。やられっぱなしは、性に合わねえ。



-End-
20131030.