- ナノ -

まどろみ




『さーて。ぼくちんもそろそろ。明日は張り切って仮装するよ〜!実はネタはもう決めてあるんだ☆』
『ん、寝る』
『じゃ、また!グッナイ、マイガール♪』

 日付を跨いだ午前2時10分、ぼくの呟きに並ぶようにして表示されたその文字に思わず頬が緩みきってしまったのも仕方がない。何へらへらしてやがんだ、主であるぼくよりも先にぼくのベッドの壁側半分に埋まっているランランは毛布の下から肩だけを覗かせて、俯いた体勢で枕に頬杖をつきながら訝しげにぼくを見てそう言った。ねえランラン気付いてないのかなあ、その言葉は必死に飲み込んで。ふるりと震える身体にそういえばエアコンのスイッチを切ったことを思い出す。部屋の照明を落として、いそいそと彼の隣に身体を滑り込ませてからベッドサイドのライトを淡い光へと調整する。時間が時間のせいかランランはしきりに欠伸を漏らしていて、けれども律儀にぼくが返すだろう返事を聞くまでは寝ないつもりなのかこ ちらをじっと見詰める姿がいじらしいとさえ思う。
「ん、えっとねえ」
「眠い、はやくしろ」
 ゆったりとしたその口調からも彼が本当に眠気との戦いに身を投じていることが窺える。なんとなしに手を伸ばして、彼の裸の肩を抱き寄せてから毛布を頭から被ってみる。ぼくがいきなり抱き寄せたせいでバランスを崩したランランは素直にこちらへと落ちてくる。鼻先が触れ合う距離で、毛布の下、あたたかな空気に眠気は増すばかり。ぼくの突然の行動が理解出来ずにいるものの限界が近いのかランランの瞼が最後の抵抗とばかりに上がったり下がったりを繰り返す。そんな様を視界に収めながらつい先程感じたことを口に紡ぐ。
「ランランのね、つぶやきが」
「ん」
「ぼくに同意してるみたいでね、なんかどきどきした」
 眠気のせいか、二人して拙い口調になりながらもそれを伝えれば。いつもなら照れ隠しの暴言が飛んでくるものの一向にその気配はない。
「だって、おまえといっしょだろ」
 ぽつりと、その言葉を最後に長い睫が影を作る。とりっくおあとりーと、不意に思い出したのだろうか、目は瞑ったままに囁かれたそれに対しての答えを、ちゅ、と触れるだけの悪戯を仕掛けてやれば、やっぱり眠たげな声音で「ぎゃくだろ」それだけが返された。おやすみ、と。ぼくが彼に向けた挨拶はきっともう届かない。すうすうと漏らされる寝息を耳に、ぼくも目を閉じた午前2時16分。



-End-
20131031.