- ナノ -

第十一夜





 こんな夢を見た。おれはどこかの部屋にいて身に付けているものはボクサータイプの下着だけ、あとは肌が晒されていてベッドに敷かれたシーツの感触が妙に生々しいと感じた。見れば眼下には男が一人、そしてその男は趣味の悪い柄をしたトランクスだけを身に付けていた。部屋は、薄暗い。きっと夜なのだろう、月明かりはぴったりと閉められたカーテンを透かして部屋の、フローリングをぼんやりと照らしている。けれどもやっぱり、薄暗かった。夢のなかのおれはこれから先に何が起こるのかを知っているんだろう。下着を脱ぎ捨ててから、眠る男の下半身へと乗り上げる形でその身体を跨いだ。男の太ももの感触を同じく太ももの、裏に感じながらもおれは体勢を整えると背を丸めて男の股間へと顔を埋めた。世間一般の人間が自分に対してどういった認識をしているか分からないほどおれは決して鈍くはない。職業柄、もしくはおれ自身が纏う雰囲気のせいもあるのかもしれない。けれども世間がおれに対して抱く印象とは異なって、生憎とおれは性経験というものが無いに等しかった。性欲がたまれば自慰といった形で処理をするもののそれまでだ。だから女の身体は知らないし、勿論男の身体だって自分以外のそれは銭湯なんかの公衆浴場で見たことがあるだけだった。話を戻す。夢のなかのおれは勝手知ったるかのように男の身体に手を伸ばす。未だに男の顔は暗闇に埋まっていて判別はできないけれどなんとなく、直感的な意味と希望的な意味も含めて、男の正体をおれは知っているのだと感じた。臍周りを一度撫でてから男の股間に鼻先を埋める。すん、とかおるのは男性器のにおいなのか、それとも男の体臭か。嫌悪感は感じずに、鼻先をグリグリと男の股間へとすり寄せてから反応もなにもしていない陰茎へと舌を出す。トランクスの布地に唾液を含ませながらその形をなぞるように舌を動かした。歯で甘噛みを加えながら上唇と下唇でおそらく玉と思われる箇所を柔く食む。次第にそこは芯を持ち始めたから夢のなかのおれはトランクス特有の防御性が薄いその布地の下へ指を這わすのがわかった。足の付け根付近から差し入れた指先にふに、と触れるのは男の睾丸だろうか。ふにふにと指先であやしながらも目先にある男の下腹部に入念に舌を這わしていた。次第に滲む苦味に顔をしかめた夢のなかのおれは唇を離すと布地を押し上げる男の陰茎に何も身に付けていない臀部をすり寄せて見せる。薄く開いた唇からは吐息が漏れて、それは眠る男の方も同じようで薄暗い室内には男二人分の吐息が響く。ひくりと、内腿が震える。男の屹立した陰茎が臀部の溝を擦る感触に口許からは唾液が伝った。見れば男はいつの間にか覚醒したようで瞳を細めて夢のなかのおれと視線を交わす。「――、」男はたしかに何かを発したけれどそれが音となっておれの耳に届くことはなかった。そのまま、何の刺激も与えられていないくせに何故か勃起しているおれの陰茎が男と、夢のなかのおれとの腹の間で揺れているのが目に映る。背を仰け反らして必死に何かを呼ぶおれの腕を男が伸ばした腕が捕まえてから、そしておれの身体もろとも引き寄せる。汗ばんだ肌の感触は、夢のなかのおれが感じたものか。それとも、今こうして普段と変わらないボロアパートの床で目を覚ましたおれの背中に伝う汗によるものか。フローリングが震えることでスマートフォンがメールの受信を知らせたことがわかった。送信元はきっと、夢のなかのあの男だろう。一度メールに目を通してから、おそらくあと数時間後に部屋のドアを叩くだろう男の姿を思いながら瞼を閉じる。ああそうだ、忘れないうちに今夜見た夢の内容を話してやろう。男はきっと驚いて目を見開いたあとに訊いてくる。その問いに対する答えをおれはまだ見つけられないだろうけど、きっと夢のなかのおれはその答えを男に返したあとのおれなのだろうと、ぼんやり、本当にぼんやりそう感じた。



-End-
20131010.