- ナノ -

たいおん




 ランラン、手繋ご。嶺二が唐突にそう言ってきたのは今から5分くらい前のことだった。それまでは、互いに飯を食い終わった後の食後休憩を思い思いにしていたところで、そんななか何を思って嶺二がそう提案してきたのかは分からなかった。

「えへへ、やっぱり少しランランの方が指長いね」
「てめぇが短いだけだろ」
「えー、そんなことないってばあ。平均だよ、平均っ」
「言ってろ」

 何をするわけでもなく、ただソファに向かいあって腰掛けて。嶺二の手とおれの手がぴたりと重なっているだけ。そう言えば嶺二のやつは“手を繋ごう”と言っていたくせにこれだとただ手を合わせているだけなのが気になった。嶺二の手はおれよりも体温が低い、傍目から見たら明らかに嶺二の方が暑苦しそうなのに、初めて触れた嶺二の肌の冷たさに驚いたのはもういつのことだっかかは覚えていない。ランランは子ども体温だねえ、なんて腹立つくらいにほっぺたを緩ませて言われたときはとりあえず一発頭を小突いてやったのを覚えている。

「ふふ、ランランの手はやっぱりあったかいなあ」
「子ども体温で悪かったな」
「あれ、ぼくの言った言葉覚えてたんだ?」

 嬉しいなあ、なんて。いつだかと同じ緩みに緩んだ面でそう呟く嶺二の頭を、今日は小突くのは止めにして空いたもう片方の手で撫でてみた。まるで猫か何かのように心地よさげに目を閉じる嶺二に少し悪戯をしかけてみたくて。重なったままだった手のひらに指を絡めてから、おもいきり引っ張ってみた。案の定体勢を崩した嶺二の顔が目の前に来て、触れるだけのキスをしてやろうと近付けばそのタイミングを窺ってたんじゃねえかってくらい完璧に目を開けやがったから至近距離で嶺二と見つめ合う羽目になる。

「ランラン、ちゅーしよっか?」
「……っ、てめぇ」
「ふふ、ランランの唇いっただっきまーす」

 ふざけた掛け声とともに唇には柔らかい感触。ふに、だか。そんな擬音が合うような幼いキスをされてから唇を舌で舐め上げられた。もっと欲しいの、なんて答えはもう分かりきっているとでも言うようなその問いかけにやっぱり腹が立ったから嶺二の頭にやっていた手でおもいきり顔を引き寄せて鼻先を噛んでやった。

「ランラン、ぼくちん結構いたい」
「歯形付けなかっただけ有難いと思え、バァカ」
「うう、もうっ!ランランのばか」

 お仕置きしちゃうからね、だとか馬鹿なことを言った嶺二はぎゅうとおれの身体を抱きしめた。ばか、てめぇだって十分身体熱いじゃねえか。


‐End‐
20130912.