- ナノ -

風邪っぴき






 風邪を引いた、と珍しくランランからメールが届いたのは今朝の8時過ぎのことだった。メールの本文自体もすごく短くて『かぜ』と、まさかの二文字にもしかしたら相当に苦しいのかもしれないと背筋がぞくっとしたのは気のせいであってほしい。とにもかくにもランランの様子を見に行かない限りはどうにも状況はわからないと思うので、とりあえず幸いにも今日の仕事は夕方からの収録のみだったことで出来たオフを最大限に活用して色々風邪によさそうなものを見繕ってからランランの部屋に来たのが今から一時間と少し前だった。

「ランラン今日オフだっけ?」
「……、」

 ぼくの言葉に返されるのは首肯による肯定だけ。インターホンを押してから暫くしてドアの隙間から顔を覗かせたランランは大きなマスクに顔半分を覆われていて片手にはスマホが握られていた。大丈夫なの、って聞いたぼくに向かって手早くスマホを操作して寄越してくれた返事は、スマホのディスプレイに書かれた『こえでねえ』の五文字。あ、さっきよりも文字数増えたなあ、なんて脳天気なことを考えていたのはランランに知られませんように。とは言え、よくよく話を聞いてみれば声も掠れているから出さないということらしいし見る限り熱はなさそうだから少し安心して、玄関口で靴を脱いでからコンビニで買ってきたお見舞いの品を広げるべく勝手場に向かった。

「ランラン桃食べる?」
「喉に引っかかるとあれだから少し小さくしようか」
「はいあーんして?」

 室内に響く声はぼくのものだけだけれど、ランランは風邪のせいもあってちょっぴり心細いのかさっきからぼくの肩口に顎を乗せてぼくが桃を切るのをずっと眺めていた。小さく分けた桃を切り分けた際に伝った汁もそのままに肩口のランランの口元に差し出してみれば素直に口を開けられたものだからなんていうかすごく、萌え、を感じる。ていうかなんていうのか、キュンキュンした。ランラン可愛い、ほんと可愛い。しゃくしゃくと桃を食べるランランのほっぺたがぼくのほっぺたに触るのが気持ちいい、なんて言ったらきっとランランのことだから照れてあっちに戻っちゃうかもしれないけど、でももしかしたら風邪マジックのおかげで滅多に見れないデレ丸、が見れちゃったりもするかもしれないから。

「ね、ランラン。くっつき虫のランランかわいいなあ、なーんて」

 たまらず口に出したそれ。さあ君の返事はどれかなあ。



-End-
20130909.