- ナノ -

ベッドイン

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 ぼふん、羽毛布団が二人分の体重を受け止めたときの音。ぼくが無理矢理にランランを羽交い締めにして、お風呂あがりでもふもふとした髪に鼻先を埋めながらその身体を緩く背中越しから抱き締めた。お座敷に敷いてあった布団は二組、流石にお値段がするところらしいから布団ひとつにもこだわりというものが感じられて。羽毛がふんだんに使われた掛け布団は勿論のこと、敷き布団やマットレスまで身体を包み込んでくれるあたたかさに自然と瞼が重くなるような気すらする。枕は適度な高さだし、眠るのが楽しみ、だなんていつぶりに思ったことだろうか。ロケで使うから、という理由だけじゃとてもじゃないけど勿体ないと素直に感じられる旅館が今回のぼくらの現場だった。

「れいじ」
「らんらーん、あのね」

 ランランのお腹に回した手に少し力を込める。互いに着ているものは部屋に備え付けだった浴衣で、これはお風呂からあがるときにランランが丁寧な手付きでぼくに着付けてくれたもの。生地が薄いせいか、お風呂あがりのあったかい体温がダイレクトに伝わってくるようで知らずと胸がぎゅうってなった。女々しいかな、でも、ほんとだから仕方がない。いつもなら浴衣の袷から手を差し入れたりなんかもしちゃうけれど今日はなんとなく、ほんとになんとなーくそんな気分じゃなくて。ランランの腰を緩く抱き寄せるようにして前に回した腕を組んでみた。すん、とランランの項からかおるランランのにおいにぼくの頬は緩みっぱなし。

「ランラン、一緒に寝ちゃお」

 こそり、って。まるで子どもが内緒話でもするかのような小声でランランの耳元へと囁いて。回答を待つ間は額をランランの背中に押し当てるようにしてじっとしていた。不意に視界が揺れて。なぜか目の前には、目の前といったら少し大袈裟かもしれないけれどぼくの視界にはランランが怒ったときみたいに眉間を寄せているのが見てとれた。でもこれはランラン自身の癖で、どういう表情を浮かべるべきか迷っているときに見せるそれだった。

「ランラン?」
「背中はあちぃ、から……ん、」

 短い言葉と一緒に控えめに差し出されたランランの左手。ぼくがそっと握ると、きゅ、って締められた指先が愛しいと思う。ぼくがランランごと倒れ込んだ布団とはまた別の、もう一組の方へとぼくの右手を巻き込んだまま潜り込んだランランはくるり、とぼくの方へ寝返りを打ったあとにゆっくりと目を瞑ったのだった。かわいい、な。抱き締めるのは明日の朝までとっておいて、ぼくもこの指先のあったかさを大事にして寝よう、と。そう思った、午前0時ちょっと過ぎ。



‐End‐
20130803.