- ナノ -

濡れる




 雨に濡れた服を脱ぐよりも早く重なる唇。互いに水滴を滴らせながら玄関に崩れ落ちて相手の唇を貪る様は飢えた獣かなにかみたいだと半ば他人事のように考えた。身に付けていたびしょ濡れのティーシャツを脱ぎ捨てたランランはぼくが着ていたパーカーを脱がせばシャツのボタンを荒々しく外して胸元へと顔を埋めてきて、まるで赤ちゃんか何かになったかのようにぼくの乳首へと唇を触れさせた。ちゅうちゅうと吸われる感覚はいまだに慣れなくて腰が震える。瞼を伏せて、水の滴が付着する長い睫毛を惜しげもなく晒しながらぼくの乳首を必死に吸うランランの頭をもっと、と抱き寄せる形で後頭部へと手のひらを宛がった。
「んぅ…ふっ、ん」
「…っは……ランラン、」
 ぢゅう、と。唾液を絡めながら強く吸い上げられる感触に思わず背が弓なりにしなる。ぼくのその姿がお気に召したのかランランは素直に立ち上がった乳首を甘噛みしながらすりすりと額を擦り合わせてきた。ひくん、と揺れる半身を感じながら手探りでランランを包む衣服を一枚、また一枚と剥がしていく。前を寛げたパンツの腰元から雨に濡れた手のひらを滑り込ませて下着越しに双丘を撫でれば面白いくらいに跳ねるランランの肩。吸い付くことに飽きたのか、顔を上げてちらりとぼくを窺うランランの瞳は巻くが張っていて。いったいどこでスイッチが入ったんだろうな、なんて今となってはあまり意味を成さない疑問を持ちながらも下着の淵から指を滑らせて直接にランランの肌へと触れる。指に張り付く適度な弾力はいつもと違って僅かに冷たい。きっと雨で冷えたせい。互いにびしょ濡れになりながら、シャワーも浴びずに玄関に転がって。それしか知らないとばかりに互いの身体を味わいながら、ドアの先から聞こえる雨音にそっと瞼を伏せた、そんな夜。



‐End‐
20130727.