- ナノ -

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 ぼくの一人エッチ、見てて。嶺二が蘭丸にそう言ったのは今から15分ほど前のはなしだった。どうしてそうなったかなんて最早蘭丸には思い出すことはできなかったが、ともかく今目の前では嶺二が一人で自分の性器を筒状にした手のひらを用いて刺激を与えていた。ベッドに横たわる形で身体を落ち着かせた蘭丸の上に覆い被さるようにして膝立ちをする嶺二は左手をベッドのヘッドボードへとかけて自身の体重を支えながら右手では己の性器を愛撫する。蘭丸はと言えばそんな嶺二の姿をやや上目になりながら見つめているのだった。見てて、なんてことを言われたのだからあからさまに視線を外すのは癪だろう。嶺二にしてみれば蘭丸のその行動すらも予想済みなのだからみすみすその予想に従ってやる必要はない、とは言え一連の流れこそが嶺二の予期していたもので結果的に蘭丸は嶺二が目の前で繰り広げる痴態から目を離すことは許されなかった。

「…っあ…、」
「ひゃ、…う…うっ、らんら…ん」
「あ、あ…きもち、……い」

 唇から漏れる声高な嬌声を止めるつもりはないのか、ひっきりなしに紡がれる嶺二の喘ぎ声はむしろ蘭丸の方が耳を塞いで逃げてしまえたら良いのに、という欲求すら生まれるほどだった。嶺二、と。掠れた蘭丸の声が名前を呼ぶことで僅かに意識が鮮明になったのか、性器から与えられる快感によって虚ろになっていた瞳は光を取り戻す。水の膜に濡れた瞳が美味しそうだと、とっさに頭に浮かんだその感想を蘭丸は頭を振ることでやり過ごした。乾いた唇を赤い舌先で舐める仕草、親指で先端を押し潰すように弄る嶺二は蘭丸と視線を絡ませたままに先走りが溢れ始めた性器を昂らせていくのだった。

「ら、んらん…ど…う」
「っは、あっ…ぼく、いっちゃ…ぁ」
「や、…あっ…ふン」

 いつだって挿入されるのは蘭丸の方だというのに嶺二はまるで自分がそうされて内部の襞の先にある前立腺へ触れられたかのように喘ぎ声を漏らす。蘭丸はそんな嶺二が嫌いではなかった、むしろ自分だけが、同性からこのような行為を受けてよがる姿に耐えられなかったというのが正しいのかもしれない。
 爪先を用いて亀頭の先をぐりぐりと執拗に弄くり回す。ひくひくと脈打つ内髄につい触ってみたくなる気持ちを蘭丸はどうにか抑えつけてそれを溜め息と共に流すことを決めた。自分の名を呼びながら自慰行為に浸る嶺二を眺めていた蘭丸は不意に下半身へと違和感を感じておそるおそる視線を下げてみる、嶺二の膝の、ちょうど真下辺り。つまりは自分の半身から窺える、気分の高揚を如実に示した部位に何故か泣きたくなるようなそんな感想を抱いたのだった。

「らんら、ん……んぅ、…あは、…こっちはきつ……ね」
「…っは、…ランラン…の気持ち良いところが知りたかった、な」

 欲に濡れた瞳でそう告げた嶺二は性器から後ろ手に伸ばして触れていた後孔から指を引き抜いて見せる。入らないや、と小さく溢す嶺二に蘭丸は荒々しく着ていたシャツを脱ぎ捨てると嶺二の後頭部へと手を伸ばして唇を重ねていた。

「ば、かやろ」
「ふふ、ランラン興奮してくれた?」

 上唇を食むような刺激を与えたあと唇を僅かに触れ合わせたままにその言葉を告げた嶺二は蘭丸からの返事を待つ前に噛み付くような、呼吸を奪うキスをするのだった。



‐End‐
20130721.