- ナノ -

なつげしき




 真っ赤に焼けた肌は見ていて痛々しいものを感じる。だからあれほど日焼け止めを塗れと言ったのに、今目の前でソファにうつ伏せになってひいひいと呻き声をあげている嶺二はまるで聞く耳を持たないっといったように数時間前日焼け対策の何かを一切施すことはせずに海へと駆け出して行ったのだった。ひたり、と。熱をもった肌が単純に気持ちいい。撫でるのはきっと刺激が強いだろうから、そのまましばらく嶺二の肌へ手のひらを吸い付かせていた蘭丸は空いた片手を伸ばしてキャップが開いたまま床に置いてあったデオドラントのプラスチック容器を何の言葉も発することなく無言で嶺二の肩の上で傾ける。容器が傾けられることで肩を濡らす中の液体は夏にぴったりと言うべきか、“クールな爽快感にあなたも虜!”とキャッチフレーズが打たれている通り肌に触れた瞬間に熱を奪うかのような爽快感を得られることで人気の商品だった。

「ひあ…っ!な、にっ」
「…おー、これすげえすーすーするんだな」

 嶺二があげた声には我れ関せずといった物言いで呟く蘭丸にわざとらしく泣き言を連ねる嶺二の姿。背中に触れた手のひらを一度離してから、その手のひらにデオドラントの中身をぬちゃりと拡げてみる。指先からぽたりぽたりと滴り落ちる雫が嶺二の背中にいくつも痕を残していく。やや粘着質なその液体を手のひらで散々捏ね回したあとに嶺二の背中へと拡げてやればひくひくと太股を震わせて熱をもった肌には些か強すぎる爽快感を纏った刺激をダイレクトに受け止める様は見ていて飽きることはなかった。


「ひゃあー…ひゃっこい」
「んめぇ」

 ぱたぱた、と人力によって緩く与えられる団扇からの生ぬるい風を受けながら揃ってうつ伏せに床へと寝転がりフローリングにぺたりと剥き出しの胸をつけた嶺二と蘭丸は顔を見合わせて笑って見せた。双方の頬は蘭丸が製氷器から取り出してきた氷のせいで歪に膨らんでいる。ひゃっこい、ともごもごと口を動かしながら口内の氷を舌先で弄ぶ嶺二に対して蘭丸は早々に氷を噛み砕き二つ目を取りにいこうと冷蔵庫へと向かう。

「…ンだよ」
「行っちゃやーだ」

 ずい、と。立ち上がる間際に伸ばされた嶺二の腕に捉えられた蘭丸は僅かに不満げな声を返すも普段よりその効果は見られない。おそらく彼も動くのが億劫だったんだろう、うまいこと自分に都合のいいように解釈をした嶺二は互いに上半身裸なことを利用するかのように蘭丸の身体を抱き締める。色気もなにもない、今や二人の体温で当初の冷たさがなくなり生暖かくなったフローリングに寝転がりながら蘭丸の背中に自身の胸板をぴたりとくっ付けて抱き締めれば「あちぃ」と一言だけ返される。上脱いでるからまだマシでしょ、なんて。弁解の言葉を即座に返すも蘭丸を離す気など欠片もない嶺二は僅かに腕の力を強めて、むぎゅり、と肌を触れ合わせたのだった。

「夏だな」
「んっ、夏だねえ」

 どこからか蝉の鳴く声を聞きながら、微睡む意識を手繰り寄せることを放棄した嶺二と蘭丸はぱたりと投げ出した腕から団扇が落ちることも気にせずにゆっくりと意識を手放していった。



‐End‐
20130726.