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伝える






『誕生日だろ』

 ランランから届いた一通のメール。おめでとうも何も書かれていないただ一言、確認事項かのように問われたそれに思わず頬が緩んだ。単純だろうとなんだろうと、ランランがぼくの誕生日を覚えていてくれたという事実が純粋に嬉しかった。「うん、そうだよん」簡素な一文に顔文字を散らして返事を返す、そうしたらランランにしては珍しいほどに早く返事が届けられた。ランラン、ぼくが返事を返すまで携帯を見ていてくれたのかな。そう考えたらあったかい気持ちで胸を満たされる。可愛いな、って。そう言ったら君は怒るだろうか。

「今どこだ」
「Aスタから上がって移動中だよー」
「飯、作っとく」

 ブルブルと震えたバイブに思わず目を細めた。電話だなんて、これまた珍しい。機械越しに響く低音に口許が緩むのがわかった。ご飯を作って待ってる、と。確かにランランはそう言った。簡素な遣り取りで途切れた電話、ランランとの通話が終了したことを示す機械音を聞きながらボタンを操作する。「待ってる、ってぼくんちかな」ぼくにしては珍しいかもしれない、またも短い文章で綴ったそれを送信すればまた直ぐにメールを受信したことを伝えてくる携帯に思わず、にひひ、とイタズラ染みた笑いが漏れた。たった二文字、ぼくの問いに対しての肯定を示したひらがなにランランらしいな、と。早く君に会いたいよ、その言葉を電子のメールに託してフラップを閉じる。 受信メール黒崎蘭丸、の文字に心が震えたのはこの短時間だけでもう何回目だろう。

『ばーか』

 それだけをぼくに届けるためにランランはメールを出したのだろうか。ああ、今日は誕生日だからいつもよりデレてくれているのかな。ひねくれた考えは脳の奥底へと放り投げて、かちかちと携帯を操作しながらふとタクシーの窓越しに映る自分自身の顔に気付いた。アホ面浮かべてんな、ランランがよくぼくに対して表現する表情そのものを浮かべたぼくが映る。なるほど、これは確かにアホ面だ。ぼくってばこんな顔してたんだなあ、と随分と他人事のような感想を浮かべながら震える携帯を開けばまさかまさか、二度目の着信を知らせるそれだった。

「あと30分で終わるぞ」
「ランラン起きててくれる?」

 我ながら意地が悪いなあ、と感じるその質問に対しても。今日のランランはいつもより素直に返事を寄越す。「待ってる、っつった」だって、反復するようにたった今耳に届いた台詞を呟けば一瞬の沈黙のあとにランランが言ってくれた言葉。

「誕生日だからな」

 それだけをぼくに届けて切られた通話、時計が告げる時間は23時37分。ねえランラン、早く早く。君に会いたい、抱き締めたい。募る気持ちを抱えながら窓の外を走る景色を見詰めた。



‐End‐
嶺二誕生日おめでとう!ランランと末長くお幸せに!
20130713.