- ナノ -




 互いに真っ裸、向かい合った状態で唇を貪り合う。最初は触れるだけだったそれが徐々に濃厚なものに変わっていくさまはいつだって興奮を煽る。唇に触れる唇は互いに互いを押し返すようなキスから、舌を差し入れて上顎を擽られるものへと変わっていった。閉じていた唇を舌先で突かれる感覚はいつになっても慣れることはない。大袈裟なくらいに肩が跳ねてそのことに舌打ちを漏らしたいのに唇は嶺二のそれで塞がれているからそんな些細な抵抗すら叶うことはなかった。ひたすらに閉じていた唇は酸素を求めようと無意識に開かれる、その隙を逃さないとばかりに割り入れられる分厚い舌の感触にまたひとつ肩が跳ねた。ぬめりをもった舌が歯列を丁寧になぞっていく、不意打ちのように合間に上顎を擽られて腰が揺れるのにも構わずに奥に逃げ込んでいた舌を差し出してみれば捕まえたとでも言うように熱いそれが絡まってきて。ざらつく感触はおれか、嶺二か。熱に茹だった頭は正確には機能しないでただその熱に自分の熱を重ねるばかり。ざらつきをざらつきで受け止めて、舌の腹に乗せられて送られてくる唾液に喉を上下させればぼんやりと見える嶺二が笑った気がした。
 胸を弄る指先に下唇を噛んで耐えていれば不満気に唇を尖らせた嶺二が唐突に乳首を抓る。親指と人差指の腹を使って思いきり抓り上げられた乳首に走った痛みのせいで唇からは呻き声が漏れた。一方だけを執拗に捏ねる指先に殺意すら芽生えたけれど、それ以上に身体へ襲ってくる快感に慣らされたものだと自分のことながら反吐が出る。
 閉じようとしても自然と開く唇から漏れる嬌声は声高に耳へ届く。耳を塞ぎたいのに、嶺二の首へと両腕を回したせいでその音はひっきりなしに室内へ響き渡った。向き合う形で突き上げられる感覚は普段とは違って奥へ、奥へと熱を擦り付けられる。前立腺を擦り上げられてだらしなく開いた唇からは唾液が伝う。その唾液を舌で掬い取ったあと、戯れに触れるだけのキスをされれば半ば条件反射のように後ろが締まるのが分かった。おれの名前を呼ぶ声音は普段の底抜けに明るいそれじゃなく、欲に濡れた男の声音そのもので。熱い吐息とともに紡がれる名前に自分の名前が「蘭丸」で良かったとすら思うのだから本当に毒されている。
 好きだよ、なんてたった四文字の言葉をその文字数の何倍も囁かれて。その言葉と引き換えに三文字の返事を囁き返す。互いに向き合っていることで至近距離に相手の空気を感じられて。体温が上がっているから必然的に鼻腔を付く自分と同じシャンプーの香りに情けないくらいに泣きたくなった。
 達する寸前の眉間にシワが寄った表情を眺めながら体内に感じる生暖かさを受け止める。ほぼ同時に腹を汚した白濁がぬめりながら腹筋を伝っていく様子を下目に、おれたちはもう一度キスをした。



‐End‐
20130614.