- ナノ -




 降りしきる雨の音が薄い壁を通して耳に伝わる。それに加えて互いの間を行き来する吐息の音も。
 部屋に帰る途中で降られた雨のせいで服はびしょ濡れ、肌に張り付くそれをまるで引き千切るかのように荒々しく取り払って二人して全裸になれば床に放ったそれはべしゃりと音を立てた。どちらかともなく唇を重ねて、もつれ込むように床へと倒れて、手を伸ばした先に触れたそれは思春期のガキみてえに興奮しきっていた。互いに、相手の手を使って煽られる感覚はいつまで経っても慣れる気はしない。どうしたって一人でやるときとは違う掌の感触にふるりと肩が震えるのが分かって舌打ちを漏らした。

「ン、」
「っは、ランラン…」

 荒く漏れる吐息に欲を煽られる。取りこぼさないように舌を絡めれば嶺二のそれにいとも簡単に囚われた。熱い粘膜に腔内を探られるたびに先端からは先走りが漏れて後ろがひくつく。まるで淫乱じゃねえか、普段だったらそう思うのに今はただ熱を感じたくてひたすらに絡まる舌に身を任せて負けじと嶺二のそれを掌で擦った。

「…ひぁ、……あっあ、」
「…っく、……き、つ」

 肉を割り開かれて侵入してくる嶺二の陰茎の熱さに引っ切り無しに声が漏れる。正常位で、中を突かれて腰が床から上がる。雨に紛れることを願って、声を抑えることをせずに嶺二の熱さを受け止めながら中を締め付ければ心なしか、嶺二も普段よりいくらか上ずった声を上げているようにも感じるからその事実にまた無意識にきゅ、と中が窄まった。鼻を刺激する香りは雨の独特のそれと、あとは嶺二のコロンだと思う。女みてえな甘い香りに最初こそ否定はしたけれど、いつの間にかその匂いが鼻をつくたびに嶺二の存在が思い出されるようになって我ながらいいように調教されたもんだと笑いたくなる。今日も変わらず、コロンをつけたらしく熱によって肌から立ち上るそれはいつもより濃くて。男を感じさせる汗の匂いと雨と、コロンの混ざった香りはなんとも言えない。いろいろなものが混ざった香りなんて不快でしかないのにそれが嶺二の放つものだと思えば喜びすら感じるのだからばかだろって思う。

「あっつ、ねえ、蘭丸熱いよ」
「…んぁ、」

 うわ言のように漏らされるその言葉に無意味な吐息で返事を返す。担ぎあげられた内腿に嶺二が痕を残すのを膜で濡れた目で見詰めながら中を締める。律動が激しくされて、鼻につくその匂いが一段と濃くなって。そのおかげか感度がよくなったように口からは嬌声が漏れる。むっとする室温に額からは汗が伝って、それを舌で舐め取るために嶺二がぴたりと身体を寄せてきた。そのせいで、くん、と鼻腔に香る嶺二の体臭に思わず精液を吐き出す。腹を濡らす生暖かさと、体内に注がれる熱さに意識が薄れていく、不意に嶺二が何かを呟いた気がした。

「あ、りがと。すっごく、すごく気持よかった」

 その声音は妙に甘くて、欲を吐き出したばかりの陰茎がふるりと震えるのを感じながらおれは意識を手放した。


−End−
20130606.