- ナノ -

行為




「風呂入ってくるからベッド行っとけ」

 ぼくらは時々獣のような欲にまみれたセックスをすることがある。周期は決まってはいない、けれどもなんとなく「ああ今日がその日だ」と予感することはある、それはきっとランランも同じ。今日の場合は仕事上がりのランランがソファで雑誌を読むぼくの姿を見るなりそう告げてきたことでこの先の行為が予測できた。いつもは丁寧に上着や荷物を片付けるランランがそれすらも億劫だというようにソファの隅に適当にそれらを放って足早に浴室へと消えていったから。

「わかった、先にベッドに行ってるね」

 呟いた声はきっと聞こえていないだろうけど。雑誌をソファに残し寝室へと向かう。ちなみにぼくは風呂上がりで翌日の仕事は午後の入りだからまだまだ時間には余裕があった。


 室内の明かりはベッド脇にあるライトのみ。それも最小の明るさに抑えてあるから部屋のなかは薄暗くぼんやりと互いの顔が、けれどもキスをするほど近付けばはっきりと相手の表情が窺える暗さだった。風呂上がりのランランは髪から滴る水滴も拭おうとせずに床に跡を残しながら裸のまま寝室へとやってきた。それを見てぼくの身体は熱くなったし、ランランもぼくの上半身裸の姿を見て喉元を上下させたから互いに興奮は高ぶっているようで心拍数が増す。

「嶺二」
「うん」

 熱に火照った頬に手をやる。手のひらで両頬を包んで唇を重ねて舌を捩じ込めば逃げることをしないランランの舌はぼくのそれに積極的に絡まってきた。舌腹を合わせて、上顎を擽って、歯列をなぞって快感を引き出そうと舌を絡めればどちらかともなくベッドへと倒れ込んで夢中で唇を貪った。水音が鼓膜を刺激するのを感じながら与えられた唾液を飲み込んで、お返しとばかりに舌に唾液を乗せて彼へと送れば拒むこともなく飲み込む姿に半身が熱くなる。銀糸が互いを繋ぐさまを下目に眺めてそれからランランを見詰めれば目元をうっすらと赤く染めて唇は飲みきれなかった唾液で濡れていた。


「……っん、ふ…」
「……、」

 ぴちゃりぴちゃり。わざと音を響かせるように後孔に舌を差し入れる。ランランの身体を二つに折り畳むように足を押さえて後ろを眼前に晒す格好をとればランランは自分の左手を口許へと持っていって手の甲で口を覆ってから瞳を閉じる。声を耐えるその仕草はいつだってぼくの劣情を煽るからそんな彼を見る度に半身は痛いくらいに下着を押し上げて存在を主張した。内腿へとキスをして、鬱血痕を付ければ白い肌に綺麗な赤がよく映える。戯れに、歯を浅く立ててから徐々に食い込ませるように甘噛みを残せばゆるく勃ち上がるランランの陰茎が視界に入って、たったそれだけでぼくのそれからは先走りが滲み出るのが分かった。解した後孔に指を差し入れて中を探る。熱い肉壁に包まれるぼくの人差し指を、ランランのナカは逃がさないとばかりに絡み付いてくる。指を二本増やして、差し入れた三本をばらばらに動かせばランランの身体は面白いくらいに跳ねる。ぼくの指に翻弄される姿が素直に愛しい。

「…んっ、」
「ランラン、あついね」

 ぼくの呟きは届いているのか。ふるふると首を振って快感に狂うさまを見るのは興奮するし、もっと乱れさせたいとすら思う。好き、好き。いくら囁いても足りないその言葉を何度も贈って。そんなぼくにランランは身体を震わせて応えてくれた。


 ぼくの上に跨って腰を振るランランの姿。ぽたりぽたりと汗が滴ってきてそれがぼくの胸を濡らす。額に張り付く前髪と、中途半端に開いた唇。深く突き入れたぼくの陰茎を飲み込んで、ぼくの腹筋に両手を着いて腰を上下するランランは普段のストイックさからは考えられないくらい欲に飢えている。とはいえぼくだってランランのことを言えないくらいには飢えているんだから笑っちゃう。ランランの腰を支えるように添えたぼくの両手のひらは汗で湿っていて僅かに滑った。それがぼくのものなのか、ランランのものなのかそんな意味のない問いは捨てて熱に溺れるように腰を突き上げれば偶然にも先端がランランのイイ所を突いたのか甲高い声で喘ぐ。真っ白な喉元を反らして酸素を求めるように唇は開いては閉じて、開いては閉じてを繰り返した。勃ち上がるランランの陰茎は先端からとろとろと透明の先走りを垂らしている。腰を突き上げるたびにそのリズムに合わせて揺れるのを眺めながら突き上げを激しくすればランランは自分の身体を支えることが難しいのか上体が倒れてくるのが分かる。それに構わず、ぼくがしたいように突き上げるとランランの唇の端から唾液が伝うのが目に入って、そのあまりの淫靡さに酷く眩暈がした。

「…ぁ、ンっあ」
「……っふ、」
「あつ、……熱い、れ、じ」
「…うん、熱い。熱いね、蘭丸」

 戯れに言葉を交わして、突き上げにラストスパートをかける。ランランの最奥を突くと同時に彼の陰茎を手のひらでぎゅうっと握りこめば前後の刺激にランランはナカをきつく締めてイった。その締め付けに危うくナカで出しそうになって慌ててランランの腰を上げるもそれを許さないといった様子でランランは上体を倒してぼくの胸とぴたりと身体を合わせる。「ぬくな」って。イった直後の掠れた声音で耳元に囁かれれば悲しいかな、ぼくの一握りの理性は消えてなくなった。びくびくと身体を震わせて、ナカに欲を吐き出せばランランはその感触も快感に結びつくのか胸を激しく上下させながら事が済むのを待っていた。


 二人して身体をベッドに横たえて、互いの陰茎を口に含む。イったばかりで萎えていたランランのそれはぼくの咥内でまた大きくなるのが分かって嬉しくなった。ゴムをつけることを拒否したランランはそのまま生でぼくを迎え入れたから、結果生で中出しをした形になってランランの臀部からはぼくの精液が流れ出てくる。苦い、と。熱に溶かされた脳が冷静に判断するのを感じながら咥内の陰茎に舌を這わせて愛撫する。ぼくを咥えるランランの咥内はすごく熱い。それはきっとぼくにも言えることだろうけどそれも比較にならないくらいに熱い咥内で、萎えたぼくの陰茎がまた張り詰めて勃起していく。尿道口に舌が差し込まれるたびに我ながら情けないくらいに腰が揺れて、お返しとばかりにランランの先端を甘噛みすれば腰を引いて逃げ腰になる姿が可愛いと思った。一度唇を離して根元から先端にかけて舌を這わす。睾丸を指先でぐにぐにと弄ると誘うように腰を揺らすランラン。イかない程度に刺激を与えて指先を離せば最後に先端にキスを贈ってランランを待つ。ぼくが咥えるのを止めたことに気付いたランランが小さく小さくぼくの名前を呼んだ。「嶺二」って。呼ばれるそれに誘われて身体を起こせば瞳に男性的な欲を滲ませたランランと視線が交差する。その瞳から目を話せなくて、「ランラン」って彼の名前を呼ぼうとしたぼくの唇は音を発せずにランランの唇に塞がれた。

「らんら、ん」
「…嶺二、抱かせろ」
「分かった」


 ゴム付けとくから解しておけって。ランランのその言葉に一つの疑問が浮かぶ。ぼくが生だったんだからランランも生で良いよって。ぼくの返しにランランは緩く首を振る。理由を聞いて返ってきた答えがなんとも可愛らしくて胸がぎゅうって締め付けられるのが分かる。「生だと直ぐイっちまうから」だって。そんな可愛い回答に口元が緩んだけれど、きっとランランがゴムを付ける理由は他にもある。ランランは優しいから、普段は挿れる側のぼくに中出しをしてお腹を壊すのを心配しているんだと思うんだ。初めてぼくが受け入れる側になったときにランランが小さくそう言ったことを思い出して胸があったかくなる。ランランの優しさが嬉しくて、こんなランランだからどういった形であれ二人で繋がりたいなって思えたんだから。

 正常位でぼくを抱くランランの表情が好きだっていつも思う。ぼくに抱かれているときとは違った男の顔でキスをするとき、愛撫をするとき、「痛くないか」って決まって訊いてくれるその表情が好き。ぼくは普段抱かれる側じゃないからランランのように挿れられることで快感は拾えないけれど、ランランの色々な表情が見られるからそれはそれで幸せだ。異物感しかない後ろの感触にはいつまで経っても慣れることはないけれど、こういう形でランランと身体を重ねる瞬間もとても大切だと思う。ぼくの手とランランの手がベッドの上で絡んで、とっくに皺になっていたシーツにもっと皺が寄る。瞳を閉じてぼくの身体を揺さぶるランランの姿がかっこいいなと素直に感じて。眉間に皺を寄せて吐息を漏らす彼の色気はぼくだけのものだって考えたらそれが快感に結びつくから結果的にぼくの陰茎は勃ち上がってぼくとランランの間に挟まれて先走りでお腹を汚している。

 不意に、寝室のクローゼットに備え付けの姿見にぼくらの姿が映りこんでいることに気付く。ランランの太腿からはぼくがさっき吐き出した精液が伝っていて、でもそんなランランが今はぼくを抱いている。そんな矛盾のような光景に目を奪われた。激しくなる律動に合わせてぼくは自分で扱いて、そんなぼくに気付いたランランが手を重ねてきてくれて。揺さぶられて扱かれて、ぼくの両足はランランの肩に担がれる。ゴム越しに吐き出された精液の熱さを感じながらランランがぼくのナカから出て行くのが分かる。その直後に勢いよく扱かれた ぼくの陰茎は呆気なく果ててぼくらの肌を汚した。


「ランラン、きつかったら言ってね」
「…ん、」

 吐息混じりに頷くランランの背後から覆い被さるような体勢で臀部に手を伸ばす。ナカに出した精液を指先で掻き出す行為にランランはいつも逃げ腰になる。指がナカを動く感覚がそれまでしていた行為を思い出すから、自分の意思とは関係なしに身体が疼くのがイヤらしい。確かに、汗に濡れた肌はまた赤く色付いてきているしさっきから内腿はぴくぴくと痙攣しているのが分かる。努めて余計な事を考えないようにしながらランランのナカから精液を掻き出すことだけに集中しようにも、ランランがそんな反応を見せてくれるからやっぱりぼくの身体は熱を持ち始める。えろいなあ、なんて。率直な感想が口をついて出そうになるのを抑えながらランランのナカに埋めた指を動かしていればふと呼ばれる名前。どうしたのって訊けば、「口寂しい」そう答えるランランの口元に背後から手を回して指先で唇を撫でれば、はむ、と柔らかな肉に挟まれる指先に背筋が思わず震える。傷付けないように、ランランのナカと咥内を犯す指先を動かせば嬌声とも呻き声ともとれる吐息を吐くランラン。律儀に這わされる舌の熱さを感じて、爪先で舌腹を引っ掻いたり圧迫したりを繰り返す。もう何度目かってくらいに勃ち上がった半身に苦笑を漏らしながらランランの名前を呼べば「…ん」って四つん這いになったランランが左右の脚を僅かに開いて見せた。

 内腿に、陰茎を挟む、所謂素股の体位になって。ランランの背中に胸元を重ねて背後から執拗に攻め立てながら唾液に濡れた指先でランランの陰茎を弾く。それを何度か繰り返していればランランはそれまでの射精によってもうかなり薄くなっているだろう精液を吐き出してイった。イく瞬間にきゅ、と締められた内腿にぼくも後を追って射精すればシーツにぺたりと身体を預けるランランの横へと転がってその身体を力いっぱい抱き締めた。

「……気持ちよかった、な」
「……おー」

 素っ気無く返されたその言葉とは裏腹に、ランランはぼくに身体を寄せてそっと胸元へと擦り寄ってきてくれたから。愛しいな、って。その気持ちを込めて、下目に覗く旋毛へとキスをした。

‐End‐
20130503.