- ナノ -

やきもち。




「……へ、…ちょ、ランランってば……!」

 不意に映ったランランの姿に思わず声を上げたらそれまで箸で口許に運んでいた唐揚げは呆気なくころりとテーブルに転がった。口が開いたまま何も言葉が出ないぼくに対してトッキーが何か小言を言ってきた気がしたけどその言葉はぼくの頭に届くことはなく。おとやんに関しては転がった唐揚げを勿体無いなあ、といった風に眺めているばかり。

「ちょっとランランのとこ行ってくる!」

 叫ぶが早いか部屋を飛び出せば後ろからはトッキーの怒鳴り声。トッキー、ごめんなさい。二人が食べた後の食器はぼくがちゃんと洗うから今日くらいは許してください、心の中でそう呟いて直ぐ隣のランラン達の部屋のドアを思いきり叩いた。



「ランラン…っ」
「…あ?」

 偶然か必然か、ドアの鍵は開いていて。お邪魔しますの声もかけずに中に入ればリビングではランランが一人ソファに腰掛けて雑誌を読んでいるところだった。辺りを見渡してもひじりんとレンレンの姿が見えないあたり、きっと二人は仕事か何かなんだろうと結論付ける。勢いよく入ってきたぼくに気付いたランランが雑誌から顔を上げてぼくを見る、勝手に入ってきたにも関わらずランランからのお説教がないのはそれぐらい、ぼくの慌てようが酷かったからかもしれない。

 でもぼくが驚くのだって無理はない。さっきテレビに映ったランランは肩が露出したなんていうかとってもロック?パンク?まあそんな感じの服を着ていたから、というか今もまさに着ているから。肩口から覗く黒のタンクトップとランランの白い肌との対比が綺麗でずっと見ていたい、触りたい、舐めたい、噛みつきたい…――痕を残したい、って思ったぼくはきっと間違ってない。

「ランラン、それ!」
「それじゃ分かんねえだろ、急に何だよ」
「…うう、その服。ランランのえっち…!」
「……は?」

 勢いのままに口に出すぼくに対してランランは何がなんだか分からないって感じで首を傾げて見せる。たったそれだけの小さな動作で僅かに肩口から見えたうっすらと赤い痕、ぼくが昨夜つけたキスマークが見えたことで理性が外れそうになるのを必死に抑えていればランランが次第に眉間へとシワを寄せていくのが分かった。

「……ココ、痕見えちゃうじゃん。ばか」
「………あー、…やべ、気付かなかった……っつかてめえ、撮影前は痕つけんなっつっただろーが」

 ソファに座るランランの膝に乗り上げて、真っ正面から向かい合う。肩口の布をほんの少し指で下げれば一つふたつの赤い痕、それに鎖骨の下辺りにつけた噛み痕。ぼくの言葉にようやく意味が分かったとばかりに頭をかくランランは暫く唸り声を上げた後にぼくの頭をぺちりと手で叩いた。地味に、痛い。

「ランラン、この服レディースじゃないの?可愛すぎでしょ」
「ざけんな、ちゃんとメンズだっつの」
「ほんとー? ……ね、ランラン。あんまり可愛い姿見せてほしくないよ、なんて言うのはきっとぼくの我が儘なんだろうなあ」

 言ってるうちにちょっぴり悲しくなって、ランランの首元に顔を埋めてぐりぐりすんすんってランランを感じていれば背中をゆっくりと撫でられる。その余裕がなんだか悔しくて、喉仏の真上に唇を寄せて、少し甘噛みを加えて。それで強く吸い付いて赤い痕を一つ、ランランの首に刻み付ける。ふる、って震える身体。ひく、って小刻みに揺れる喉元。その全部が愛しくてぎゅうっとランランの身体を抱き締めれば嫉妬にも似た独占欲が満たされるのが分かって知らずと引き結んでいた唇が綻ぶのを感じた。

「……おまえはそうやっておれだけをずっと見てりゃ良いんだよ、ばーか」
「……ランランのファンの子達、妬いちゃうかもよ?」
「ファンはファン、てめえはてめえだろ」
「ぼく、君を見てて良いの?」
「は、見ててえくせに何言ってやがんだ」

 二人で額を付き合わせてにへらって頬を緩めて交わしたその言葉。ランランの言葉が図星過ぎて思わず熱くなったほっぺたをランランが両の指先でむにむにとつねってくる。ふふ、幸せだなあって。自然と口に出たその言葉を最後にぼくたちはそっと、唇を重ねてキスをした。





やきもち。
(よっし、ぼくもちょっぴりえっちな服にしようかなっ)
(…てめえの路線じゃねえだろ、つかエロくねえっつの)
(ぶー、ランランの肌はぼくだけのものだもんっ)
(ふ、言ってろよ、……ばーか)

‐End‐
3話蘭ちゃんの私服に荒ぶった産物。
20130420.