- ナノ -

やきもち





 執拗にドアを叩く音を無視し続けてからもう直ぐで10分。インターホンを鳴らされてドア越しの相手を確かめてみりゃあそこにいたのは嶺二で、妙にテンション高え調子で俺の名前を連呼しやがる奴にシカトを決め込めばいつだかを思い出すようにドアをひたすらに叩かれる、くそうるせえ。渡してやった合鍵を使わねえでわざわざ俺がドアを開けるまで待ってる辺り嶺二の思惑通りにドアを開けるのが癪でどうにも腰が重い。そのうちにドアを叩く音がやんで、それまでの騒音が嘘みてえに物音ひとつしなくなったと思って玄関を覗きに行けば嶺二の奴が諦めたのか鍵を使って入ってくるとこだった。


「うう、ランランのツンデレ!」
「うるせーばか」
「せーっかく愛しのれいちゃんが帰ってきたっていうのに冷たいよー、ランランってばー」
「誰がどこに帰ってきたんだ、奇襲の間違いだろーが。放り出すぞ」
「今更じゃーん、ただいま、ランラン!」
「……いらっしゃいませ」


 棒読み酷い、れいちゃん泣いちゃう。だとか訳分かんねえことを抜かす嶺二の頭をぶん殴ってからリビングに戻る。ぱたぱたと後を追っかけてくる嶺二に合わせて知らずと歩幅が狭くなるのが腹立つ、絆されるなんざロックじゃねえ。


「らーんらん、見てみて」
「……あ?」
「くまランラン、もう一人買っちゃったあ」


 一人ってなんだ、一匹、もしくは一体の間違いだろーが。それを言う間もなく嶺二は自分で買ってきたらしいその熊をほっぺたにすり寄せてへらへらにやついてる。俺が何も言わねえことを良いことにアホ面浮かべて熊を抱き締めては「ランラン好き好き、ちょー可愛い」だとかなんとか言ってやがる、それは俺じゃなくあくまでも熊だろーが、ンなことを不意に考える俺の頭はどれだけこいつに毒されてんのか。


「ありゃ、ランランどしたの」
「……別にどうもしねえよ」
「うーそ、眉間に皺が寄ってるよん。ねー、くまランラン?」


 裏声を使って熊と一人二役をしてバカみてえな茶番を見せやがる嶺二にひたすら苛つくだけで。普段のこいつの言動なんざ流せるはずが今だけはどうしても腹が立つし頭も痛くなる。しまいには「くまランランとちゅー」だとか言って熊の鼻先に唇を寄せる嶺二。その光景に、何でか妙な気分になって咄嗟に目をそらせば、そんな俺の姿に気付いたのか嶺二は熊を片手にずいっと顔を寄せてくる。覗き込むようなその行動から逃げるようにして顔をそらして、嶺二の視界から逃れようとしてもこういうときばかりムカつくくらいに動作の早い嶺二が俺の顎に手をやって無理矢理に視線を合わせられた。


「えと、ランラン、」
「………ん、だよ」
「ぼくの勘違いだったらごめんね、もしかして、寂しかった?」
「な、」


 寂しかったか寂しくなかったか、それを聞かれて素直に答えられるほど俺の頭は単純ではないらしい。すとん、と落ちてきた寂しいっつう感覚にムカつくやら泣きたくなるやらぶん殴りたくなるやら、…嶺二に抱きつきたくなるやら色んな感情でごちゃごちゃになってたまらず舌打ちが漏れる。


「……か、」
「んん、ごめん、何て?」
「…ワリイ、か妬いちゃ」
「妬く、って、くまに?」
「てめえの目の前に居んだろーが、ばかれーじ」


 そう言って熊を奪うとソファーに放って。そのままの勢いでソファーと嶺二に乗り上げる形で体重をかける。咄嗟の行動だったのに、しっかりと俺を抱き止める嶺二に一々どうこう感じる俺の頭は可笑しくなったのか。てめえよか身体の小せえ相手にぎゅうぎゅうに抱き締められて、それを嬉しく感じるなんざマジで終わってる。







やきもち
(らーんらん、好きだよ、きみだけが好き)
(……熊よりもか)
(うん、くまよりも、きみが好き)
(……あっそ、)

‐End‐
くま蘭ちゃんのオッドアイ+裸ネクタイで可愛すぎたので。
20130207.