- ナノ -

正しい×××のススメ





 前に一度蘭丸から問い掛けられた言葉を嶺二は不意に思い出した。その時も自分はスキンのビニールを歯で切り開けようとしていたことも重ねて思い出せばその出来事がつい最近のことのようで妙な感覚を覚える。それを問い掛けられたのは確か、蘭丸と身体を重ねるようになってから幾ヶ月か過ぎた頃だったはず、現在から考えればもう一年以上前のこととなる。




(おまえはいつもそれ着けるよな、正直……っン…い、がい)
(…えへ、ランラン、話してる余裕なんてないくせにー…かーわいっ)
(…ご、ま……っかす……、っな……ッ)
(……んー、そんなに意外、かなあ)


 口にスキンのビニールを咥えながら指先では蘭丸のナカを探る。人差し指の第一関節から徐々に差し入れていって付け根付近まで埋まったところで指を増やした。中指と人差し指をわざと互い違いに動かして熱い粘膜を刺激しながらも歯でビニールを切り開ける。そんな嶺二の姿に、刺激によって生理的な涙を目尻に浮かべた蘭丸はそれでもなるべく漏れ出る声は抑えぎみに、いつもの声音を装って問い掛けたのだった。その時はその問いに返すべき答えが咄嗟のことで用意できずにいて、しかし嶺二にとっての蘭丸は決して適当な答えを返すべき相手ではなかった。だからこそその時はその場凌ぎとしてナカに埋める指の本数を増やすことで蘭丸の意識をその問いから逸らすことにしたのだった。




「れ、じ……指、もう…っい、い」
「だーめ、ちゃんと解さなきゃ辛いのはランランだから」
「……く、……んぅ、…っは、」
「声も抑えなくていいのに、」
「……う、…っせ」


 今日もまた、いつだかと同じように口にスキンのビニールを咥えながら蘭丸のナカを丁寧に指で解している自分がいた。そんな己を嶺二は前に蘭丸から問い掛けられた問いの答えをぼんやりと考えながら見つめている自分に気付く。ああ懐かしいな、前もこんなことがあった。不意に口をついて出そうになった言葉は音にはならないものの表情には現れていたようで、これもまたいつだかと同じように目尻に膜の張った瞳でこちらを見やる蘭丸とぱちりと視線が絡むのであった。


「ねえランラン、」
「な、……っんだ、よ」
「ちょっとね、昔を思い出したんだ」


 昔を思い出した、と言った嶺二に対して蘭丸は訝しげに眉根を寄せて見せる。とはいっても言葉を紡ぎながらナカに埋めた指で内側の粘膜を引っ掻くようにして刺激したことが原因かもしれないが。そんな蘭丸の反応に自然と口角がつり上がるのを感じて嶺二はふるふると首を緩く左右に振る。自分だけが気持ちいいのではなくて、目の前の彼にも気持ちよくなってもらわねば今こうして身体を重ねようとしている行為そのものが無意味となってしまう。そんなことを思考の端に引っ掻けつつもナカを探る指の本数を一本、また一本と増やしていった。


「前にランランが聞いたでしょ、ぼくに」
「……な、にが」
「ぼくがコレ着けるの、意外だって」


 そう言いながら口に咥えたスキンのビニールを一度指で摘まんで蘭丸の前に掲げて見せる。嶺二の言葉で記憶が掘り起こされたのか、続きを話せとばかりに蘭丸は嶺二から決して視線をはずそうとはしなかった。そんな蘭丸の姿勢に安堵ともとれる吐息を一つ、再度スキンを口に咥え直し、空いた指先で胸元の突起を摘まんで見せれば蘭丸はひくりと肩を跳ねさせる。そんな素直な反応に心のなかがじんわりと満たされていく感覚を得ながらも嶺二は促されるままに言葉を続けていった。


「昔ね、やんちゃしてた頃は着けてなかったよコレ。その方が気持ちいいし」
「……な、ら」
「うん、でもそれってさ逆に言えば相手のことはまるで意識の外ってことでしょ」
「……」
「ねえランラン、ぼくね……きみが本当に大事で仕方ないの。ほんとーに、きみが好きで大切で、」
「……ん、」
「だから着けるの、蘭丸とするときは」


 ぽつりぽつりと呟く嶺二に対して蘭丸はじっと耳を傾けている。この時ばかりは、嶺二はナカに埋めた指は引き抜いて軽くシーツで拭った後に蘭丸の頬へその掌を添えていた。そんな嶺二の姿に蘭丸は数回の瞬きののちそっと瞼を伏せて長く、ゆっくりと吐息を漏らす。蘭丸の額に汗によって張り付いた前髪を嶺二は空いた指でそっと退けて現れたそこに腰を屈めて唇を寄せれば瞳を上げた蘭丸と至近距離で視線が絡むのがわかった。


「なら、おれとは……ずっとそれ着けるのか」
「…ん、ランランが大事だからね。それに、」
「……それに、なんだよ」
「ランランとだったらね、例えコレを着けててもすっごく気持ちいいんだ」
「……、」
「ふふ、きっとランランと心が通じあってるからってぼくは考えてるんだけど……ランランはどう思う?」
「……お、れは……っぁ、ン」


 言葉を紡ぎながらスキンを着けた半身を徐々に蘭丸のナカへと埋めていけば質問の答えを得る前に心地よく耳に響くのは普段のそれより僅かに高い蘭丸の声。ひくりと震える蘭丸の陰茎を伸ばした指先で形をなぞるようにして撫で上げ、蘭丸自身の髪色とは違い黒々とした下生えを指で梳く。そのままやんわりと掌で睾丸を揉みあげて亀頭に指を這わせれば蘭丸は内腿を振るわせて先端からは先走りを垂らして見せた。


「れ、じ……ッ、…ぁ」
「…うん、」
「おれ、は……おまえとな、ら何だって気持ちいい……おまえしか、知らねえけど、な」
「……、」
「で、…っも、……れい、じが」
「ぼくが、」
「…おまえの、……気持ちが納得できると、きで…い、から……そのま、ま…いれろよ、」
「……でも、ランラン、それは」
「おれは、…おまえ……っと、一緒に……気持ちよく、なりて……ッン…あっ、」
「……っ、らんま、る」


 途切れ途切れになりながらも伝えられたその言葉に蘭丸のナカへと埋められた嶺二の半身は脈打ち質量を増す。その圧迫に息を詰める蘭丸と耐えるようにして眉間へと皺を寄せる嶺二の荒い息遣いだけが室内に響いていた。

 数分の間互いに動きもせずにひたすらに息を整えていれば蘭丸の頬には再度嶺二の左手が添えられる。そしてシーツを固く握りしめていた蘭丸の左手を掬い上げるようにして目の前に掲げてその薬指へと嶺二はそっと唇を寄せ口付けを贈って見せたのだった。嶺二のその行動をじっと見詰める蘭丸の視線を感じながらも嶺二は薬指の付け根へ唇を滑らせればそこにも唇を寄せ、小さく言葉を紡いでいった。


「…いつか、ちゃんと伝えるから。ねえランラン、ここ、ぼくが予約しても良いかな?」
「こ、こ……って、」
「ん、蘭丸の、左手薬指。きみの未来をぼくに下さい、………って、ランラン…っ、」


 きゅ、と締まる後孔に嶺二が息を詰まらせるとほぼ同時に蘭丸が嶺二の視界から逃れるようにして空いた右腕で嶺二の左手を払い退け目許を覆う。そんな反応すら愛しさが募るのを感じながらも、蘭丸の表情を見たいと思う嶺二は行き場の失った左手をもって出来る限りゆっくりと、けっして無理矢理にはせずに蘭丸の右手をとり指先を絡めてシーツへと縫い付ける。あらわになった蘭丸の表情に無意識に喉元を上下させる嶺二と、気恥ずかしさからか舌打ちを漏らす蘭丸。

 嬉しさから、にへらと頬を緩ませる嶺二の左手を唐突に引けば体勢を崩す姿にくつりと喉で笑った蘭丸は嶺二の耳許で先程の言葉に対する返事を囁いたのち、見せつけるようにして彼の左手薬指に甘噛みをするのだった。







正しい×××のススメ
(……好きだよ、愛してる)
(……………おれも、)
(えへ、ランランと両想いだ)
(…だな、)

‐End‐
20130129.