- ナノ -

お揃い





「らーんらん、見てみて買っちゃったあ」


 いきなり玄関の扉が開いたかと思えば嶺二の奴が靴を脱ぐのも惜しいってくらいに慌てた様子で駆けてくる。合鍵で勝手に部屋に入る分には構わねえけど連絡も無しにさも当然のように来やがるのは苛つく、突然やって来るわりにはおれが腹減って死にそうなときはタイミング悪く仕事で帰りが遅いとかぬかしやがるから余計に。つかそんなことをグダグダ考えてる自分にも苛つくのもマジ。


「ありゃランランってばご機嫌ななめ?」
「うっせー、……で、何買ったんだよ食い物か」
「あ、ご飯はちゃーんと作るよん。でもでも、本題はこれでーす」


 妙にテンション高え声音でバカみてえな効果音と共に差し出されたのは嶺二の携帯。特に変わったこたあねえだろって突っぱねてやろうとしたらいつもは何も着いてねえ嶺二の携帯には手のひらサイズのクマがぶら下がってやがるのが目についた。邪魔くさくねえのかこれ、俺の考えが読めたのか嶺二は俺から携帯を受け取るとそのクマのストラップに頬擦りして見せる。


「おまえそういう趣味か」
「またまたー、ランランってばちゃんと見てってば。ほーら、これランランでしょ」


 何が俺なんだ、口に出す寸前にずいっと目の前に差し出されるクマは目の色が左右違っていてクマのくせにロックじゃねえかと思った。よく見りゃ腕にはブレス嵌めてやがるし、何となく見覚えのあるそれと嶺二の顔とを交互に見比べる。


「ね、ランランでしょ?」
「…あー、これ。グッズか何かか」


 俺の問い掛けに対して嶺二は満面の笑みで頷いて見せる。そういやシャイニングの親父が俺たちをモチーフにしたグッズを出すとか出さねえとか言ってやがったなとぼんやり思い出した。いつだったか、真斗とレンが二人して俺に渡してきやがったクマも確かこんな感じだった気がする。


「えへ、今日が発売日でさー……ランランのクマ、可愛いよねえ」
「…女が持つモンじゃねーのか」
「んん、だってぼくちんだって持ちたかったんだもん」


 これでランランといつでも一緒だねー、だとか言ってクマ付き携帯を抱き締める嶺二。見てるこっちが呆れるくらいにはほっぺた緩ませてアホ面を浮かべてやがる。


「でね、ランランにはこっち」


 しばらくそれを眺めてりゃあ思い出したとばかりに大袈裟にリアクションして片手に下げた紙袋からプラスチックのケースに入った何かを取り出して見せる。よく見りゃそれは多分、つうより見た通り嶺二をモチーフにしたクマ。帽子こそ被っちゃいねえけど白いジャケットに青のネクタイをしたクマをがさがさとプラケースから取り出して俺の手に乗せる。


「ランランとお揃いで持ちたいなあって」
「……ンなだせえ真似するか」
「らんらーん、お願い!ベースケースとか、ていうかケースの中とかでも良いから、鞄の中とかでも良いからっ」
「ぜってー、やだ。つか何でてめえのクマなんだよ。おれのじゃねーのか」
「だってお互いのクマ持ってるとか夢じゃん、ロマンじゃん」


 ねー、ランランとれいちゃーん。バカみてえにクマ同士を突き合わせて裏声使って俺に賛同を求める嶺二の頭を一発殴って嶺二クマを奪い取る。見れば見るほど嶺二と被ってきやがるからムカつく。


「……ん、これで良いんだろ」
「…! ランラン、ありがとー……うう、ランラン好きすきー」


 奪い取ったクマのチェーンを外して、一瞬迷ったあとベースケース外側のポケットに付ける。クマを掴んでポケットの口を開けることになるだろーけど、不思議と鬱陶しいとは思わなかった。しばらく嶺二クマを指先でつついて遊んでりゃあ嶺二がおもいきり抱き着いてきやがる。その勢いでソファーが音をたてたけど、そんなこともお構い無しといった様子で足をばたばたと動かして俺の腰に腕を添えて顔を近づけてくる嶺二を見て沸き上がった悪戯心。


「…へ、」
「おー、堂々と浮気か嶺二」
「……う、らんらーん…すき、」


 咄嗟に手に取ったそれ。ソファーの端に置いた紙袋に放り込んであったおれのクマを取り出して、キスしてこようとした嶺二の唇に押し付けてやった。ちなみに俺は見せ付けるようにしてもうひとつの嶺二クマにキスしてやる。


「ランラン、これ、えっと」
「……たまたま貰った」
「…ランラン、かーわいいなあほんと。ならこの二人はベッドサイドに並べておこっか」


 クマを二匹、俺ごと抱き締めて心底嬉しそうに言う嶺二に流されるようにして首元に腕を絡めた。幸せ、なんて何か腹立つから言ってやんねーけど。







お揃い
(ランラン、ほんっと、大好きだよ)
(……おー、おれも)
(…えへ、幸せだなあ)
(……ばーか)

‐End‐
先輩くま発売に荒ぶったので。
20130124.