- ナノ -

滑落





 この間のお返し、なんて口を開くやいなや俺の指を咥えた嶺二はそのまま舌を這わせて舐めて見せる。指なんか舐めて何が楽しいんだか、口には出さなかったのに俺の考えを読んだかのように関節に歯を立てられるのが分かって思わず舌打ちが漏れた。そんな俺に嶺二は悪趣味な笑みはっ付けて俺と視線を合わせてきやがるから。それがどうにも居心地が悪くて逃げられなくなる前に視線を外せばそのまま嶺二は舌の動きを再開させてしつこく指を舐め続けた。


「……っは、らんらんの指、おーいし」


 わざわざ口に出さなくても良いようなことを平気で口にする嶺二に頭はくらりとぐらつく。それがどんな感情に因るものかなんて分かりたくねえし、分かったとこで癪だろーから考えないようにする。その間にも嶺二は馬鹿丁寧に俺の指一本一本を口に咥えていくからその度に意思とは関係なしに跳ねる肩がうぜえ。舌の熱さと粘膜に包まれることで感じる柔らかさ、唾液がたてる水音、加えて俺の指が嶺二にしゃぶられてるっつう事実にぐらぐらと揺れる頭は一向に治まりそうもない。時折吸われて、時折甘噛みされて。じくじくと身体の中心に集まる熱が鬱陶しくて堪らねえ。ぴちゃり、耳に届く水音に堪らなくなって思わず目を閉じれば嶺二が普段よりか低い声音で俺の名前を呼ぶ。白々しく尋ねる体をとったそれに舌打ちをしようにも今口を開けばみっともねえ呻きが出るだろうから必死に唇を噛み締めた。


「ランラン、口開けてくれなきゃちゅーできないよ」


 俺の指を解放して、最後に咥えていた人差し指の腹を赤い舌で舐めた後に呟かれたそれ。眉間寄せて睨み付けたところで嶺二には通用しねえのは今までの経験で知ってっから行動に移すのすら怠くなって大人しく口を小さく開いてやった。







陥落
(おにーさん、早くちゅーしろよ)
(誘うようにして口にすれば重なる唇の熱さに腰が震える)

‐End‐
20121103.