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ハッピーハロウィン





 那月が朝から妙に機嫌が良い。見れば部屋の中はオレンジと紫で溢れ返っていて壁にはカボチャモチーフの飾りつけがされている。時期外れとしか言えないクリスマスツリーが何故か飾られていてツリーの頂点には星じゃなく魔女だかなんだかのくたびれた帽子が乗っかってやがる。見たところチビと藍の姿は見えなくて、この部屋には俺と那月の二人きりだということが分かった。


「翔ちゃんと藍ちゃんはお料理を買ってきてくれるみたいです、僕が作るよって言ったら二人が急いで出て行っちゃって」


 いくらかしょぼくれる那月の髪をくしゃりと掻き混ぜてやれば途端にぱあっと笑顔を浮かべる。お前の料理は俺だけが食えば良いんだよ、情けなくも小声になったそれに那月は頬を高揚させてぎゅうっと俺を抱き締める。えへ、さっちゃんには今度たーっぷりお料理を振る舞いますね。耳朶を擽る呼気に肩を跳ねさせたのも那月にはバレたらしい。なんとなく気恥ずかしくなって那月が飛び付いてきて頬を擦り寄せてくる右とは逆方向を向けば途端に頬を暖かい何かに包まれるのが分かった。


「さっちゃん、trick or treatです」


 那月に両の掌で俺の頬を包んで視線を合わせられて。逸らすことの出来なくなった為に至近距離にある那月の顔に、包まれた頬には自然と熱が上がる。さっちゃん、お顔があっついです。なんて、どの口で言うんだという言葉を天使のような笑顔で口に出されて。自分と那月の顔の造りは全く同じなはずなのに纏う雰囲気でこんなにも印象が変わるのかと改めて実感する。


「菓子はねえから悪戯、しろよ」


 やられっぱなしは癪だから、わざと唇から舌を覗かせるようにして誘えば。うう、狡いですさっちゃんは。なんて真っ赤な顔して抱き着いてくる那月を受け止めた。







ハッピーハロウィン
(……なあ、これ俺ら部屋に入れなくね)
(ナツキとサツキには後で課題を5倍にして渡すよ)
(うへー…ごしゅーしょーさま)
(何言ってるの、こうなることを予測できなかったショウにも責任があるんだからね)
(は、)
(特別に3倍で許してあげる)
(……もうやだこいつら、)

‐End‐
20121101.