- ナノ -




 このまま逃げてまおうか。パーティーも終わり掛け、年末の忙しい時期だというのにそれなりの人数を集めてくれたひなちゃんにお礼の言葉を伝えにいけば片手にワイングラスを持った土岐に腕を引かれてホールを連れ出され今は玄関を出た寒空の下。


「酔っているのかい、」
「まさか、俺そない弱ないし。それにこれアルコールとちゃうよ」


 年齢から考えて不穏な言葉が聞こえたのには目をつむるとして。ならばどうして、問い掛けようとした唇は土岐が人差し指で制止を掛けることで言葉を紡ぐことはなかった。


「今日くらいは、あんたを独占してもええんやないの」
「…随分と、らしくないことを言うんだな」


 間髪入れずに返した俺に対して土岐は喉でくつくつと、それはさも可笑しそうに笑って見せた。せやね、俺らしゅうない。そう口にしたきり黙り込む土岐を何の気もなしに見詰めていれば不意に未だ手を繋がれたままだったことを思い出す。これも、らしくないだろうね。ふらり、と。繋いだままの互いの手を土岐の眼前で振ってやれば、せやね、と一言。それから互いに何かを口にすることなく、ただぼんやりと夜空を眺めていればふと頬に触れた冷たさに肩を跳ねさせる羽目になる。


「君の手は随分と冷たいな」
「ほな、榊君が温めてえな」


 温めろ。そう言ったわりには土岐自身から行動を起こす、彼のこういった行動に慣れていたはずなのに一々ひくつく身体が憎らしい。





(触れた唇はやっぱり少し冷たい)
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